平安幻想異聞録-異聞- 73


(73)
しばらくして、アキラがまた粥を持って来てくれたので、ヒカルはそれを遠慮なく
全部食べた(今度はちゃんと自分の手で)。具も何もなかった朝のものに比べて、
今回は青菜と、トロトロと固まりきっていない卵が溶かし込まれていて、
本当においしかった。
体に力が戻ってくる気がした。
床に伏したまま、窓から高く上った日を眺める。秋の高い空を薄い雲が流れている。
ヒカルは考える。
今夜も、あの蛇の形をした異形は来るという。
アキラは、なんとしても壺の場所を夜までに見つけると言っていたが、
そんなことが出来るのだろうか。
蠱毒をしかけた向こう側の陰陽師だって、こちらがそういう手段に出ることぐらい、
百も承知だろう。たぶん二重三重に結界をはって、その存在する場所を隠そうと
するんじゃないだろうか。
アキラは本当に、夜までにそれを見つけ出すことが出来るんだろうか?
夜になれば奴が来るのだ。
昨晩、自分の上を這い、中を抉った太いミミズのような感触を思い出して、
ヒカルの肌が粟立った。
また自分は、あんな恥辱的な醜態をアキラの前にさらさなくてはならないんだろうか。
そして何より。
自分の頬の上に落ちて来た、生暖かい濡れた感触。鼻を突く血の匂い。
血だらけの腕。
頭の中に浮かんだその絵は、そのまま、佐為の腕に赤く残る魔物の巻き付いた痕と重なった。
アキラに、またあんな風に自分が女みたいに喘ぐ様なんて絶対に見られたくなかった。
巻き込まれたアキラが、血を流すのも見たくなかった。
だが、このままでは帰れない。
この足に刻みこまれた『印』が有る限り、魔物はヒカルのいるところへと
追ってくるのだから。
家に帰れば、家族をあの魔物の牙の前にさらすことになる。
佐為の家に行くなんて言わずもがなだ。
(どうしたら、いいんだろうな。佐為)
ヒカルは、佐為の、神様に丹精込められて作られた様な顔に浮かぶ、
やさしげな笑みを思い浮かべた。
そのヒカルの耳に、幻聴のように蘇った言葉があった。
――(佐為殿には頼れないような困ったことがおきたら、儂のところに来るがよい。
   力になろうぞ)
頭の中に生々しく再生されたその言葉に、ヒカルはまるで、雷に打たれたかの
ような衝撃を受けた。



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