失着点・龍界編 73
(73)
次の日の午後、緒方が迎えにマンションに来た時、すでに二人は
出られる用意をしていた。
目に力を取り戻し静かにソファに座るアキラを見て緒方は安堵し、感謝する
ようにヒカルを見た。ヒカルも緒方にハッキリと答えた。
「オレ達は、大丈夫です。」
そしてヒカルは何とかほどけたアキラの頭の包帯を巻きなおそうと
四苦八苦していた。
「包帯はいいよ、進藤。絆創膏で。」
アキラがすまなそうにヒカルを見るがヒカルは半分意地になっている
ようだった。そしてヒカルは助けを求めるような目で緒方を見た。
「…オレにどうしろと言うんだ。」
緒方は包帯でぐるぐる巻の右手を見せた。
するとアキラはその手に引き寄せられるように立上がり、緒方のそばに
歩み寄った。包帯が巻かれた手を取りそっと撫でる。涙が一筋こぼれ落ちた。
「…君が泣く事はないんだ。アキラ君」
緒方はアキラの涙を左手の指先で拭った。
それを見ていたヒカルは、ふと、ゆうべのアキラの言葉を思い出していた。
『…ボクも来た事があるよ…一度だけ…』
あれは、アキラなりの告白だったのかもしれない。
目の前の二人を見ているとそう思えてきた。
でも、以前二人に何かあったとしても、今の自分には関係なかった。
もし緒方とアキラにそう言う関係が一度でもあって、その上で緒方がアキラを
手放しアキラが緒方のもとを去ったのなら、それは余程の決意があった上での
事なのだろう。二人の中で完結しているものなのだ。
自分と緒方の関係がそうであったように。
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