失着点・展界編 73


(73)
ヒカルの足が止まった。アキラは和谷を壁際に追い詰め、繰り返す。
「進藤に何をした。」
対局を上回るようなアキラの気迫に、和谷はうっすらと笑みを浮かべた。
「…進藤に聞けばいい。」
アキラが和谷の襟首を掴んだ。和谷は笑みを浮かべたままだった。
「…元名人の息子が、棋院会館の中で暴力を振るっていいのかい…?」
アキラが動くより先にヒカルがアキラの右腕にしがみついた。
「進藤に…何をした!」
アキラが声を荒げた。ヒカルを振払おうと動き、ヒカルはただ必死に
しがみつく。今ここで、和谷の口からあの事をアキラに言われたら、
それこそ取り返しのつかないことになる。どうにかしてアキラを和谷から
引き離さなくては。その時、和谷が口を開いた。ヒカルは目を閉じた。
「…何もしてねえよ。」
「えっ」とヒカルは驚いた。アキラは和谷を睨んだままだった。
「何もしていねえよ。ただ進藤に宣言していただけさ。今日お前に勝って、
お前から進藤を奪うって…。それだけだよ。」
アキラの腕から、荒々しい力が抜けた。ただ、和谷の言葉を全面的に
受け入れた訳ではなさそうだった。それでも、ヒカルは和谷の襟首から
アキラの左手を外させた。アキラの手はわずかに震えていた。
ヒカルがその手を両手で包むと、ようやくアキラはヒカルを見た。
「少し、落ち着けよ、塔…」
そう言いかけたヒカルの唇にアキラは自分の唇を重ねた。
和谷に見せつけるように。



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