Linkage 73 - 74
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「……ボク……何も着てない……」
呆然とした様子でそう呟いて、再び緒方の方を見る。
困惑した表情を浮かべた緒方が、アキラの言葉に仕方なく頷いた瞬間、アキラが声を上げた。
「……痛っ!……身体が痛いよぉ……」
上半身をなんとか起こしたアキラは、さも辛そうに肩や腕の関節を何度か撫でると、
股関節にも手を伸ばし、痛みに小さく呻きながらゆっくりとさすった。
「筋肉痛だな。2、3日は痛むかもしれんが……。大丈夫か、アキラ君?」
緒方は、アキラに対する昨晩の自身の行為を今更隠し立てする気にはなれなかった。
アキラのすぐ横に腰掛けると、露わになったアキラの背中から肩にかけて丹念にさすってやる。
薄明りが差し込んではいるが、室内はまだそう明るくない。
だが、緒方の目には、アキラの身体の至る所に刻み込まれた昨晩の情交の証がまざまざと映っていた。
アキラはまだそれに気付いていないのか、慣れない痛みに堪えながら、羽布団に覆われた下半身を
揉んだりさすったりしている。
「起きられるかい?」
肩をさする緒方の問いかけに、アキラは緒方の腕を弱々しく掴んで頷いた。
「……ボク……シャワー浴びたい……。……なんか、身体がペタペタして気持ち悪い……」
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身体の痛みからなのか、それとも昨晩のことを思い出したのか、アキラの目尻は
涙で微かに潤んでいる。
「わかった。じゃあ、ちょっと待っててくれ。準備してくるから」
緒方はアキラの目尻を指先でそっと拭ってやると、立ち上がった。
「…………緒方さん!」
寝室を出ようとドアへ歩み寄る緒方をアキラがこれまでとは打って変わり、
力強い口調で呼び止めた。
緒方は心の内をアキラに悟らせまいと、なんとか無表情を保ち、ゆっくりと振り返る。
「なんだい、アキラ君?」
穏やかな声で答える緒方をアキラはしばらく黙ったまま凝視していた。
そんなアキラを緒方は静かに見据える。
「……なんでもないです……。ごめんなさい…………」
ゆるゆると首を横に振りながら、囁くような小声で答えるアキラに、
緒方は切ない気持ちを堪え、優しく語りかける。
「……アキラ君が謝ることなんて何もないだろ……。そこで、ちょっと待っててくれな」
小さく頷くアキラを見て、緒方は寝室を後にした。
アキラは緒方が出ていった方向に視線を向けたまま動かなかった。
ふと、そんなアキラの頬を一筋の涙が音もなく伝い落ちる。
だが、戻って来る緒方の足音に気付くと、アキラは手の甲で涙の跡を拭い、
何事もなかったかのようにドアの方へ再び目を遣った。
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