初めての体験 74


(74)
 「佐為……どうしていなくなっちゃったんだよぉ…」 
ヒカルは、佐為のことを思い出していた。一人でいると、時々、不意に、佐為のことを
思い出して、寂しくなる。
 ヒカルは、目尻に滲んだ涙をぐいっと手で拭いて、鞄を手元にたぐり寄せた。
そして、中から、愛用の手帳をとりだして、ぱらぱらとページをめくった。
 そこには、高名な棋士達の名前が羅列されている。
「だいぶ、増えたな…」
ヒカルは、にんまりと笑った。さっきまで泣いていたことなど、もう、半分忘れていた。




 ヒカルに手ほどきをしたのは、実は、佐為だった。初めて、佐為に会ったのは、
ヒカルが十二歳の時だ。まだ、自慰をしたこともなかった。それどころか、遊びに夢中で
そっち方面のことは、まるで知識がなかった。
 そんなヒカルに、佐為は、碁のことを教えるついでに、いけないことまで教えてしまった。
二百年ぶりに外にでられて、はしゃいでいたのかもしれない。まあ、ヒカルが自分好み
の少年だったことも大きな要因だろうが……。
 ヒカルは、佐為に碁を教えて貰っている間、妙な気分になることが度々あった。ヒカルには、
それが何だかわからなかった。もやもやして、言葉では表現できない、何とも言えない変な
気持ちだった。
 しかし、それが佐為のせいだとは思いもしなかった。ヒカルは、以前、佐為の心に
同調して、自分の体調が悪くなっていたのを、すっかり忘れてしまっていた。
 あれは、ヒカルが佐為の頼みをきいてあげなかったため、佐為の悲しみが、ヒカルの体調を
優れなくしていたのだと思っていた。今は、自分も碁に夢中になっているので、
佐為の影響を再び受けているなどと、考えても見なかった。



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