初めての体験 74 - 79


(74)
 「佐為……どうしていなくなっちゃったんだよぉ…」 
ヒカルは、佐為のことを思い出していた。一人でいると、時々、不意に、佐為のことを
思い出して、寂しくなる。
 ヒカルは、目尻に滲んだ涙をぐいっと手で拭いて、鞄を手元にたぐり寄せた。
そして、中から、愛用の手帳をとりだして、ぱらぱらとページをめくった。
 そこには、高名な棋士達の名前が羅列されている。
「だいぶ、増えたな…」
ヒカルは、にんまりと笑った。さっきまで泣いていたことなど、もう、半分忘れていた。




 ヒカルに手ほどきをしたのは、実は、佐為だった。初めて、佐為に会ったのは、
ヒカルが十二歳の時だ。まだ、自慰をしたこともなかった。それどころか、遊びに夢中で
そっち方面のことは、まるで知識がなかった。
 そんなヒカルに、佐為は、碁のことを教えるついでに、いけないことまで教えてしまった。
二百年ぶりに外にでられて、はしゃいでいたのかもしれない。まあ、ヒカルが自分好み
の少年だったことも大きな要因だろうが……。
 ヒカルは、佐為に碁を教えて貰っている間、妙な気分になることが度々あった。ヒカルには、
それが何だかわからなかった。もやもやして、言葉では表現できない、何とも言えない変な
気持ちだった。
 しかし、それが佐為のせいだとは思いもしなかった。ヒカルは、以前、佐為の心に
同調して、自分の体調が悪くなっていたのを、すっかり忘れてしまっていた。
 あれは、ヒカルが佐為の頼みをきいてあげなかったため、佐為の悲しみが、ヒカルの体調を
優れなくしていたのだと思っていた。今は、自分も碁に夢中になっているので、
佐為の影響を再び受けているなどと、考えても見なかった。


(75)
 佐為は、ヒカルの真剣な表情を見る度、自分に生身の肉体がないのを悔やんでいた。
普段は、あどけないヒカルが碁盤の前では、別人のように凛々しい。
『ああ……私に身体があったら……ふぅ………
 こんな風に眺めるだけで満足なんて絶対にしないのに……』
あんなことや、こんなこと――――――口ではとても言えないことを、この無邪気な少年に、
施して、泣かせてみたい……。
 佐為は、優しく美しいその笑顔の下に、激しい欲望を抱いていた。しかし、それは不可能だった。
佐為の想いは募る一方である。 そんな佐為の情欲が、ヒカルの身体に影響を与えていたのだ。
 『なんか…オレ…碁を打っていると…いつも変な気持ちになる…なんで…?』
ヒカルは、正座した足をムズムズさせた。
 佐為は、自分の身体の変化に戸惑っているヒカルの困ったような顔を見て、ますます、
興奮した―――――表面上はあくまでも、穏やかで優しい姿だった。その佐為の興奮が、
またヒカルに伝わって……。悪循環であった。
 とうとうヒカルが泣き出した。自分では、どうにも出来ない身体の疼きに、
耐えられなくなってしまったのだ。
「佐為……オレ…何か…変なんだよお…碁を打っていると身体が…熱くって…
 どうしよう…どうしたらいいの…さいぃ……」
ヒカルが、身体を捩らせながら訴えた。愛らしい口は、ハアハアと喘いでいる。小さな
手はズボンの前を押さえていた。



(76)
619 :初めての初めてsage :02/07/31 21:40
 佐為は口元に、美しい笑みを湛えて言った。
「ヒカル……それはヒカルが本当の碁打ちだからです。ヒカルの碁に対する
 想いが身体に快感を与えているのです。碁を打っていると、気持ちいいんでしょう?」
佐為の適当なウソ解説に、熱い身体を持て余して、悶えているヒカルは妙に納得してしまった。
「快感……てわかんないけど…気持ちいい…ような…悪いような…」
「でも…身体が熱くて堪んないよぉ……ねぇ…佐為…何とかしてよぉ……」
ヒカルは、熱い吐息で切れ切れになる言葉を、何とか吐き出し、佐為の次の言葉を待った。
「ヒカル――――では、私の言うことを聞きますか?」
神妙な顔で告げる佐為に、ヒカルは頷いた。
「どんなことでも――――ですよ?」
ヒカルは何度も何度も頷く。佐為の言うとおりにすれば、このヘンになった身体が治るのだ。
「では、着ている物を全部脱いでください。下履きも全部。」
佐為が託宣でも授けるように、厳かに告げた。


(76)
 ヒカルは佐為の言うとおり、全て脱ぎ去り一糸纏わぬ姿になった。もともと、いつも佐為に
見られているので、それに対する羞恥心は全くなかった。ヒカルは、自分のその無防備な様が、
佐為の情欲を煽り、現在、自分の身体に変調を来している原因だと知らなかった。

「佐為……ヘンだよ…オレの…腫れてる…病気かなぁ?」
ヒカルが、半分泣きそうな顔を佐為のに向けた。佐為は笑い出しそうになるのを堪えて、
わざと厳めしく告げた。
「大丈夫。私の言うとおりにすれば、すぐに治りますよ。」
ヒカルはコクンと小さく頷いた。その仕草の可愛らしいことと言ったら……。
 佐為は、ヒカルにベッドに腰を掛けるように命じた。そして、自分はその後ろにまわった。
佐為は、ヒカルを後ろから抱きかかえるようにして、まだ幼いヒカル自身に触れた。
実際は、佐為はヒカルには触れられない。触れたように見えただけだ。
「やだ…佐為…」
それなのに、ヒカルは小さく悲鳴を上げた。
 佐為がヒカルに触れた―――ヒカルにはそう見えた―――瞬間、身体に電気が走ったのだ。
佐為は、そのまま繊細な指先でヒカル自身を嬲り始めた。触られてもいないそこが、段々
熱くなっていく。
「あ…やぁ…やめてよ…」
「ヒカル…よく見て…私がやるのと同じように…自分でやるんですよ…」
佐為の言葉に頷くと、ヒカルはおずおずと自分自身に触れた。
「ふぁぁ!」
直に触れると、ものすごい快感が背中を駆け登っていった。


(77)
 「あ…あ…ああん…」
ヒカルは佐為を真似て、自らを懸命に嬲った。指で軽く輪を作り、上下にさすったり、
先端を指でくすぐったりした。
 チロチロと舌を覗かせながら、喘ぐヒカルはとても子供とは思えない色気を発していた。
その姿に佐為の情欲はますます高まる。
「あふ…はあ……あぁ!」
ヒカルは、小さく呻いて、自らの欲望を解放した。掌には、初めて自分が放出した物が
べったりと付いていた。青臭くて、変な匂いだ。『早く手を洗いたい』とヒカルは思った。
 「ヒカル…それを指先になすりつけて、後ろに入れるんです。」
佐為が、まだ息の荒いヒカルに命じた。
「……?後ろって……お尻のこと!?」
ヒカルが、呆然と佐為を見つめた。佐為は黙って頷いた。
「え!やだよ!汚いじゃん――そんなとこに指を入れるなんて―――」
一気に身体の熱が引いた。ヒカルは佐為に猛然と抗議した。
 「でも、ヒカル…それじゃ、まだ、物足りないでしょう?」
佐為が、氷山でも溶かしかねない熱い眼差しを、ヒカルに向けた。途端に、一旦静まった
はずのヒカルの身体が、ドクンと熱く脈打ち始める。
「え…?ウソ…?治ったんじゃないの?へんなやつ出して腫れが引いたのに……」
ヒカルが狼狽えた。物足りないのは、ヒカルではない。佐為である。彼は、もっともっと
ヒカルが幼い身体をくねらせて悶える様を、ヒカルの痴態を見たかった。
 触れることが出来ないのなら、せめてヒカルの全てを余すところなく見つめていたい。「ね?まだ、足りないんですよ。」
佐為がヒカルにニコリと笑いかけたとき、ヒカルはもう喘ぐことしか出来なくなっていた。


(78)
 ヒカルはベッドの上で四つん這いになった。そして、佐為の言うとおり、自分の
放った物を指の先につけて、後ろに回した。だが、さすがに中に指を入れることには
抵抗があって、ヒカルの指は周辺を彷徨った。だが、佐為に無言で促され、ゆっくりと
中指をそこに沈めた。
「うぅ……!」
痛みに呻くヒカルに、佐為の静かな声が届く。
「そうです。そのまま、前後に動かして…」

 ヒカルは、佐為の言葉のままに、一本ずつ指を増やし、操った。
「は…あ…あぁ…」
いつしか、ヒカルの唇からは苦痛の呻きではなく、快感に啼く甘い声が紡ぎ出されていた。
だが、その甘い声に苦痛の色が混じり始めた。
「あ…だめ…だめ…だめ…だめだよぉ……」
身体の奥がくすぶって熱いのに、ヒカルの小さな指ではそこに届かない。自分の行為で
悪戯に身体を煽られ、ヒカルはますます身悶えた。佐為は『自分に肉体があれば、ヒカルの
望みをすぐに叶えてあげられるのに……』と、臍を噛んだ。
 ふと、机の上を見ると、ヒカルの筆記用具が散らばっていた。そこには、十五センチ程度
長さのマジックペンがあった。それほど、太くなく、まだ幼いヒカルには、これで十分
だと思われた。


(79)
 佐為の声がヒカルにそれを告げる。ヒカルは、素直にその命令に従った。この出口のない
快感を何とかしてくれるのならば、ヒカルは、悪魔の命令にも従うであろう。そうして、
机の上のそのペンを取ると、再び、ベッドの上に這った。
 指でよくほぐされたそこは、簡単にそれを受け入れた。無機物の冷たい感触に、
ヒカルの身体は震えた。先ほどと同じように、ゆっくりと、そして、徐々に早く動かし
始めた。
「あ…ああん…いい…きもちいい……きもちいいよぉ…んん…」
ヒカルの口からひきり無しに、嬌声が漏れる。小さな尻が、大きく揺れた。
「はぁ…あん…ああ―――――――」
ヒカルは、二度目の精を放った。


 「佐為…すごくよかった…碁を打つとこんなにいいんだね…」
ヒカルの潤んだ瞳が、うっとりと佐為を見つめた。
「強い相手と打てば、もっといいですよ。」
「相手が強ければ、強いほど得られる物も段違いですからね。」
佐為は、愛おしげにヒカルを見つめ返した。
「強い相手と対峙するだけで、気持ちが高揚し、恍惚感が体中を支配するのです。」
 佐為の言葉は難しすぎて、ヒカルにはよくわからなかった。わかるのは、強い相手と
対局すれば、もっとすごい体験ができると言うことだけだ。
「強い相手?塔矢みたいな?」
「ええ…塔矢でも塔矢の父親でも…とにかく強い棋士と一局でも多く打つことです。」
ヒカルは、先ほどの余韻に浸りながら、目を閉じた。
「オレ…塔矢と打ちたいな…打てるかな…」
「きっと打てますよ。ヒカルは、今よりもっと強くなりますからね。」
佐為の力強い言葉に安心して、ヒカルはそのまま眠ってしまった。そのあどけない寝顔は、
佐為を信頼しきっていた。

 ともあれ、この一件で、ヒカルの碁に対する認識と情熱が、ひどく歪んだ物になったことは
間違いなかった。




――――――パタン、とシステム手帳を閉じた。
 ヒカルは、手帳を鞄の中にしまうと、そのまま、鞄を肩に背負った。
「佐為……オレ頑張っているからな……」
ヒカルはそう呟くと、神の一手を目指すべく、対局場へと向かった。

<終>



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