失着点・展界編 76


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伊角と和谷は連れ立って外へ出てヒカルがその後に続いていく感じになった。
二人はヒカルの方を振り返りもせず進んで行く。途中、碁会所があったが、
立ち寄る気配が無い。
「…伊角さん…?」
ヒカルが少し不安げに声をかけた。
「…ああ、ちょっと和谷の手を先に治療してやりたいんだ。こいつ、薬とか
全部アパートに置いて来たらしい。」
ドキリ、とヒカルの胸の奥が鳴った。和谷のアパートには出来れば二度と近付
きたくない。そんなヒカルの不安を見越したように和谷が声を掛けて来た。
「無理しなくていいぞ、進藤。ここまで一緒に来てくれただけで十分だ。
…塔矢のところに、今直ぐ戻れよ。」
ヒカルは迷った。まだ正午を過ぎたばかりの日ざしは高くて、町並みを
眩しく照らし出している。
「…オレ達が、怖いのか?オレもなのか?…進藤…。」
伊角が少し気落ちしたように言った。ヒカルは首を横に振った。
「怖くねえよ…。和谷はおいといて、オレ、伊角さん、信じてるから…」
半分冗談混じりに、自分に言い聞かせるように言ってみる。伊角は穏やかに
笑顔を見せる。今まで何かと自分の為に気遣ってくれて来た伊角の笑顔だ。
こんな明るくて長閑な時間に、彼等と何かが起こるはずがない。
それでもアパートの階段を登る時は、少し気後れがした。和谷と伊角は
先に部屋に入って行ってしまった。
「何なら、ドア、開けっ放しにしといて構わないぞ。」
覗き込むヒカルに和谷がそう言い、苦笑しながらヒカルはその部屋に入った。



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