初めての体験 76 - 82
(76)
ヒカルは佐為の言うとおり、全て脱ぎ去り一糸纏わぬ姿になった。もともと、いつも佐為に
見られているので、それに対する羞恥心は全くなかった。ヒカルは、自分のその無防備な様が、
佐為の情欲を煽り、現在、自分の身体に変調を来している原因だと知らなかった。
「佐為……ヘンだよ…オレの…腫れてる…病気かなぁ?」
ヒカルが、半分泣きそうな顔を佐為のに向けた。佐為は笑い出しそうになるのを堪えて、
わざと厳めしく告げた。
「大丈夫。私の言うとおりにすれば、すぐに治りますよ。」
ヒカルはコクンと小さく頷いた。その仕草の可愛らしいことと言ったら……。
佐為は、ヒカルにベッドに腰を掛けるように命じた。そして、自分はその後ろにまわった。
佐為は、ヒカルを後ろから抱きかかえるようにして、まだ幼いヒカル自身に触れた。
実際は、佐為はヒカルには触れられない。触れたように見えただけだ。
「やだ…佐為…」
それなのに、ヒカルは小さく悲鳴を上げた。
佐為がヒカルに触れた―――ヒカルにはそう見えた―――瞬間、身体に電気が走ったのだ。
佐為は、そのまま繊細な指先でヒカル自身を嬲り始めた。触られてもいないそこが、段々
熱くなっていく。
「あ…やぁ…やめてよ…」
「ヒカル…よく見て…私がやるのと同じように…自分でやるんですよ…」
佐為の言葉に頷くと、ヒカルはおずおずと自分自身に触れた。
「ふぁぁ!」
直に触れると、ものすごい快感が背中を駆け登っていった。
(77)
「あ…あ…ああん…」
ヒカルは佐為を真似て、自らを懸命に嬲った。指で軽く輪を作り、上下にさすったり、
先端を指でくすぐったりした。
チロチロと舌を覗かせながら、喘ぐヒカルはとても子供とは思えない色気を発していた。
その姿に佐為の情欲はますます高まる。
「あふ…はあ……あぁ!」
ヒカルは、小さく呻いて、自らの欲望を解放した。掌には、初めて自分が放出した物が
べったりと付いていた。青臭くて、変な匂いだ。『早く手を洗いたい』とヒカルは思った。
「ヒカル…それを指先になすりつけて、後ろに入れるんです。」
佐為が、まだ息の荒いヒカルに命じた。
「……?後ろって……お尻のこと!?」
ヒカルが、呆然と佐為を見つめた。佐為は黙って頷いた。
「え!やだよ!汚いじゃん――そんなとこに指を入れるなんて―――」
一気に身体の熱が引いた。ヒカルは佐為に猛然と抗議した。
「でも、ヒカル…それじゃ、まだ、物足りないでしょう?」
佐為が、氷山でも溶かしかねない熱い眼差しを、ヒカルに向けた。途端に、一旦静まった
はずのヒカルの身体が、ドクンと熱く脈打ち始める。
「え…?ウソ…?治ったんじゃないの?へんなやつ出して腫れが引いたのに……」
ヒカルが狼狽えた。物足りないのは、ヒカルではない。佐為である。彼は、もっともっと
ヒカルが幼い身体をくねらせて悶える様を、ヒカルの痴態を見たかった。
触れることが出来ないのなら、せめてヒカルの全てを余すところなく見つめていたい。「ね?まだ、足りないんですよ。」
佐為がヒカルにニコリと笑いかけたとき、ヒカルはもう喘ぐことしか出来なくなっていた。
(78)
ヒカルはベッドの上で四つん這いになった。そして、佐為の言うとおり、自分の
放った物を指の先につけて、後ろに回した。だが、さすがに中に指を入れることには
抵抗があって、ヒカルの指は周辺を彷徨った。だが、佐為に無言で促され、ゆっくりと
中指をそこに沈めた。
「うぅ……!」
痛みに呻くヒカルに、佐為の静かな声が届く。
「そうです。そのまま、前後に動かして…」
ヒカルは、佐為の言葉のままに、一本ずつ指を増やし、操った。
「は…あ…あぁ…」
いつしか、ヒカルの唇からは苦痛の呻きではなく、快感に啼く甘い声が紡ぎ出されていた。
だが、その甘い声に苦痛の色が混じり始めた。
「あ…だめ…だめ…だめ…だめだよぉ……」
身体の奥がくすぶって熱いのに、ヒカルの小さな指ではそこに届かない。自分の行為で
悪戯に身体を煽られ、ヒカルはますます身悶えた。佐為は『自分に肉体があれば、ヒカルの
望みをすぐに叶えてあげられるのに……』と、臍を噛んだ。
ふと、机の上を見ると、ヒカルの筆記用具が散らばっていた。そこには、十五センチ程度
長さのマジックペンがあった。それほど、太くなく、まだ幼いヒカルには、これで十分
だと思われた。
(79)
佐為の声がヒカルにそれを告げる。ヒカルは、素直にその命令に従った。この出口のない
快感を何とかしてくれるのならば、ヒカルは、悪魔の命令にも従うであろう。そうして、
机の上のそのペンを取ると、再び、ベッドの上に這った。
指でよくほぐされたそこは、簡単にそれを受け入れた。無機物の冷たい感触に、
ヒカルの身体は震えた。先ほどと同じように、ゆっくりと、そして、徐々に早く動かし
始めた。
「あ…ああん…いい…きもちいい……きもちいいよぉ…んん…」
ヒカルの口からひきり無しに、嬌声が漏れる。小さな尻が、大きく揺れた。
「はぁ…あん…ああ―――――――」
ヒカルは、二度目の精を放った。
「佐為…すごくよかった…碁を打つとこんなにいいんだね…」
ヒカルの潤んだ瞳が、うっとりと佐為を見つめた。
「強い相手と打てば、もっといいですよ。」
「相手が強ければ、強いほど得られる物も段違いですからね。」
佐為は、愛おしげにヒカルを見つめ返した。
「強い相手と対峙するだけで、気持ちが高揚し、恍惚感が体中を支配するのです。」
佐為の言葉は難しすぎて、ヒカルにはよくわからなかった。わかるのは、強い相手と
対局すれば、もっとすごい体験ができると言うことだけだ。
「強い相手?塔矢みたいな?」
「ええ…塔矢でも塔矢の父親でも…とにかく強い棋士と一局でも多く打つことです。」
ヒカルは、先ほどの余韻に浸りながら、目を閉じた。
「オレ…塔矢と打ちたいな…打てるかな…」
「きっと打てますよ。ヒカルは、今よりもっと強くなりますからね。」
佐為の力強い言葉に安心して、ヒカルはそのまま眠ってしまった。そのあどけない寝顔は、
佐為を信頼しきっていた。
ともあれ、この一件で、ヒカルの碁に対する認識と情熱が、ひどく歪んだ物になったことは
間違いなかった。
――――――パタン、とシステム手帳を閉じた。
ヒカルは、手帳を鞄の中にしまうと、そのまま、鞄を肩に背負った。
「佐為……オレ頑張っているからな……」
ヒカルはそう呟くと、神の一手を目指すべく、対局場へと向かった。
<終>
(80)
佐為の指導のもと、ヒカルの腕はめきめきと上達した。もう、囲碁部の連中では、
てんで相手にならない。あの加賀でさえもヒカルは籠絡した。
囲碁大会でのアキラとの一戦が、ヒカルの闘志に火をつけたのだ。
―――――――ふざけるな!
ヒカルを怒鳴りつけた時のアキラのあの眼―――――思い出してもゾクゾクする。
ヒカルを見ようともせず、去っていった後ろ姿。
絶対、振り向かせて見せる。ヒカルは、そう心に誓っていた。
そして、今、ヒカルは碁会所で岸本と向かい合っていた。たまたま入った本屋で岸本に
会い、対局を持ちかけられたのだ。
『これはチャンスだ』と、ヒカルは思った。上達したとはいえ、ヒカルは、自分の実力が
今一掴み切れていない。岸本と一局打って、自分の今の棋力を確かめるつもりだった。
(81)
負けた………。
強くなったと言っても、やっぱり岸本には勝てないのか。これじゃあ、塔矢と打つなんて、
夢のまた夢だ……。
ヒカルは、泣きたくなってしまった。自然と俯いてしまう。ふと、視線を感じて顔を
上げると、一瞬、岸本と目があった。岸本は、すぐに視線を逸らした。気のせいか、頬が
赤らんでいるように見える。
実際、岸本はやや冷静を欠いていた。碁盤に向かうヒカルの真剣な姿。勝負がついた後の
情けない泣きそうな表情。自分を見つめる大きな瞳。ヒカルの一瞬の表情の全てが、自分の
心に突き刺さってくる。自分でも、説明できない感情が湧き上がってきた。
それを隠すために、アキラのことを話し続ける。ヒカルにとっては、少々耳の痛い話題も
混じっていた。
「ヒカル…これは良い機会です…」
ヒカルの傍らに佇んでいた佐為が、声をかけた。ヒカルは、視線だけを後ろに向けた。
「この少年、どうやらヒカルに気がある様子…あっちの方も試して見ませんか?」
「え…でもぉ…」
ヒカルは気乗りしない。だって、今、負けたばかりなのに…。そんな気になれない。
「何を言うんです!強くなるためには、一局でも多く打ちなさいと、いつも言っているで しょう?強くなりたくないのですか?」
「強くならなければ、塔矢は歯牙にもかけてくれませんよ?」
その一言でヒカルの腹は決まった。
(82)
「うわあぁぁぁん!」
ヒカルは、いきなり机に突っ伏して大泣きした。岸本はびっくりして、ヒカルのもとに駆け寄った。
周りの大人達も二人に注目していた。
「ど…どうしたんだ?」
「だって、岸本さん…意地悪ばかり言うんだもん…オレだって…塔矢と打ちたいのに…」
ヒカルがしゃくり上げながら、訴えた。涙を溜めた大きな瞳で、岸本を上目遣いにじっと見つめた。
その視線が、岸本の腹にズシリと来た。自分の身体の変化に岸本は狼狽えた。ヒカルを
慰めるための言葉も思いつかない。
「気持ち悪い…」
岸本が逡巡しているのを見て、ヒカルが大げさに餌付いて見せた。如何にも、泣きすぎて、
気分が悪くなったと言わんばかりだ。
「大丈夫か?進藤。」
岸本がハッとして、ヒカルの背中をさすりながら、顔を近づけてきた。ヒカルは、
周りを素早く見回すと、岸本の唇にチュッとキスをした。そして、驚きのあまり声も出ない
彼の耳元で、そっと囁いた。
「二人きりになりたいな…」
岸本の胸に凭れ掛かり、反応を窺う。岸本の心臓の鼓動が、ヒカルの耳に響いた。
『いける…!』
ヒカルは、確信した。
「岸本さん…オレ…吐きそう…お願い…トイレへ連れていって…」
掠れた声で、甘えるようにねだった。岸本は、ヒカルの肩を抱くと、支えるようにして、
トイレに連れていった。ヒカルの肩に置かれたその手は、微かに震えていた。
|