Linkage 77 - 78
(77)
「そんなことはない。…………ひとつだけ信じてほしいのは、オレがアキラ君を
嫌いになるようなことは、これまでも、そしてこれからも決してないということだ」
沈黙したまま緒方をじっと見つめていたアキラの瞳から、大粒の涙がこぼれ落ちた。
「…………うん」
安心したように頷くアキラをやりきれない思いで見つめる緒方は、アキラの両肩に
ゆっくりと手を置いた。
(……なんでもっとオレを責めないんだよ……)
そのまま力無く項垂れ、瞳を閉じる。
そんな緒方をしばしの間、複雑な表情を浮かべながら見つめていたアキラだったが、
何を思ったか、ふと口を開いた。
「ねぇ……緒方さん……」
緒方は驚いて顔を上げた。
「眼鏡……ちょっと曇ってるよ」
アキラは少し照れ臭そうにそう言って、顔を上げた緒方の眼鏡のレンズを指先で
拭ってやる。
「あれっ!泡が付いちゃったかなぁ……?ごめんね、緒方さん」
緒方はしばらく状況が把握できないまま、ただアキラを見つめていた。
やがて、目尻を涙で濡らしながらも、はにかみながら微笑むアキラの身体を優しく
抱き寄せた。
「服が泡だらけになっちゃうよ、緒方さんっ!」
緒方の腕の中で声を上げるアキラの背中を労るように撫でながら、緒方はアキラの
髪に顔を埋め、耳元に唇を寄せる。
「……いいんだよ、そんなの……」
アキラは緒方の胸に頬を擦り寄せ、背中に手を回すと、柔らかなカシミアのセーターを
泡だらけの手できゅっと握り締めた。
(78)
アキラの身体をシャワーで流してやった後、浴室を出た緒方は、洗濯乾燥機の中から
昨晩の内に洗い終えてすっかり乾燥したアキラの下着を取り出した。
「ひとりで着替えられるか?」
「……それくらいは、自分でできますっ!」
羞恥心から頬を赤らめ、力強くそう答えたアキラを洗面所に残し、緒方は自身も
着替えるため、クローゼットのある寝室へ向かった。
リビングを足早に通り抜けようとすると、電話が鳴る。
かけてきたのはアキラの父親、塔矢行洋だった。
緊張した面持ちで受話器を握る緒方に、塔矢はアキラが一晩世話になったことへの
礼と、自宅に朝食を用意してある旨を伝え、緒方をその朝食の席に誘う。
「……朝はあまり胃が受け付けないもので……。わざわざお心遣いいただいて、
ありがとうございます」
昨晩の一件がなければ快諾したであろう師匠からの申し出だったが、失礼にならないよう
断ると、間もなく塔矢家に向かうことを告げ、受話器を置いた。
(……あながち嘘というわけでもないが……)
確かに、日頃の朝食はごく軽いものかコーヒー一杯で済ませてしまう緒方だったが、
師匠の誘いを断った真の理由を隠匿しただけに、気が重い。
そこへ、着替えを終えたアキラが現れた。
シャワーを浴びる前と比べ、その足取りは格段にしっかりしている。
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