平安幻想異聞録-異聞- 77 - 78
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「どうにかする方法を教えろ…じゃなくて、教えて欲しい」
座間はつまらなそうに、扇を開いり閉じたりしている。
「それでは話にならんのう。ただ教えろと言われてもな。あれをどこにも逃げぬよう、
力をうばい縛り直すには、それ相応の陰陽師に相応の金を払わねばならんのでのう。
検非違使殿に、それだけの金があるとも思えん」
ヒカルはそれを聞いて少し胸を撫で下ろした。今の座間の物言いを信じれば、あの異形を
ヒカルに差し向けるために術を使ったのは、外部から金でやとった陰陽師らしい。
半年前までは、座間派のおかかえの陰陽師と言えば、倉田だった。ただ、ヒカルは
なんだかんだと人のいい倉田が嫌いではなかったので、今回の呪詛にかかわった陰陽師が
倉田でなければいいと思っていたのだ。
「あれを縛るのに、こちらはそれ相応のことをしなければならんのだ。それなりの
見返りがなければのう」
そちらが勝手にヒカルにあの異形を差し向けたくせに勝手なことを言っている。
「見返りって……なんだよ」
だが、そういったことを要求されるのはヒカルも予想のうちだった。でなければ、
座間が手間ひまかけて、こんな風にヒカルを罠にかけるなどするはずがない。
さぁ、何を要求されるのか? 佐為の食事に毒を盛れとでも命ずるつもりだろうか?
だが、次の座間の言葉は予想だにしなかったものだった。
「おぬし、儂の物になれ」
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言われた言葉の意味が飲み込めず、ほんの一時ヒカルはポカンとしてしまった。
――オレが座間のものにって……え?え?
「先だっての下弦の月の夜は、楽しかったのう、検非違使殿。
儂は正直、あの夜の夢が忘れられん」
「な…に、言って……」
戸惑うヒカルに、座間が笑った。
「わしがお前を使って、佐為の奴や、行洋の失脚でも狙うとおもうたか?
そのようなこと、わざわざお前ごとき小者を使わんでも、いくらでもやりようはあるわ。
儂がこうしてお前がここに来るようにしむけた目的などただひとつ。これよ」
座間が持っていた扇を閉じて、それでヒカルの喉のあたりに触れた。
そのまま手を持ち上げて、扇でヒカルの頬をなでる。
「単に美味いだけの美酒なら金さえあればいくらでも手に入るが、
こういった珍しい類いの酒は金を積んだだけではなかなか手に入らぬでのう」
ヒカルはおそるおそる答えた。
「佐為の警護をやめて…、あんたの警護をしろってことか?」
「分からぬお子じゃのう。儂はおまえの体が欲しいと言っておるのだ。
儂が飽きるまで、毎夜のごとく寝所にはべり、閨の相手をせい、とな」
ヒカルの体が震えた。
「したれば、あれを縛ってやってもよい」
「一介の検非違使ごときの者を、座間様がお抱え下さろうというのだ。
感謝こそすれ、断るいわれはあるまい」
菅原が口をはさんだ。
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