平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 77 - 78
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「じゃあ、抱いて」
囁くヒカルの声に、アキラの体がピクリと震えた。
「抱いて欲しいんだ、誰かに。この体の中に入ってきて欲しい、おまえでもいい」
「佐為殿のかわりに、か?」
「そうだよっ」
以前、自分を好きだといってくれた相手に、ひどいことを言っているのはわかって
いた。だけど、アキラがヒカルの心を知りたいというなら、これが今のヒカルの
本心だ。きれい事でごまかそうとは思わなかった。
「他の誰でも嫌だ、佐為じゃなきゃ嫌だ。なのに、…佐為がいないんだ」
声が震えているのがなんとも自分でも情けなく、ヒカルは下を向いた
「だから……」
「僕に、佐為殿の身代わりになって、君を抱けというのか」
ヒカルは黙ってうなずく。
「わかった。やってみよう」
「佐為殿はどうやって、君を抱いていたんだ。僕はこんなことするのは初めてだ
から、どうしていいかわからない。だからそれに従う」
黄昏時を迎えた碁会所は差し込む陽も弱くなり、相手の顔形がやっとわかるか
わからない程度に暗くなっている。
板敷きの、古いがよく手入れされた碁会所のその真ん中に二人で向かい合って
座り、ヒカルとアキラはお互いを見ていた。
「……着物、脱がして……」
先の自慰の名残で、ヒカルの狩衣の前身頃の留め紐はすでにはずれていた。
そこにアキラは手を伸ばし、そっとその厚手の絹を肩からはずした。
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布は自身の重さで床に形を崩して落ちた。
「単衣も」
アキラの指がヒカルの単衣の襟元にかかる。
ゆっくりと押し広げられた布の間から、鎖骨のくぼみが覗いた。
一連の行為は、儀式のようだった。
一枚一枚、アキラに着物を剥がれ、ヒカルはその肌を彼の前にあらわにした。
隠すもののなくなった上半身に続き、アキラは、その腰の鞘だけになっている
太刀を解いて脇によけておき、ヒカルがついさっきアキラが現れるまえに絞め
直したばかりの指貫の腰帯の結び目をほどく。
ここまで来ても、まだ正座したままでこちらに手を伸ばしてきているアキラに、
ヒカルは言った。
「そんなに離れてたら、何にも出来ないだろ」
アキラは膝をよせ、厳かにヒカルを抱きしめた。
「これから、どうしたらいいんだ?」
ヒカルは欲に潤んだ瞳で、間近のアキラの顔を見上げる。
そして、つぶやくように告げた。
「――優しくして」
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