失着点・展界編 78
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ヒカルはギクリとした。そーっと手を退こうとするが、グッとさらに強く
握られる。和谷は、笑みを浮かべてヒカルを見つめている。
「本当は、どうでもいいんだよ。塔矢の事は…」
「…和谷…?」
ヒカルは咄嗟に伊角を見た。伊角は…ヒカルから目を逸らした。
「…伊角さ…」
グイッとヒカルの体が引っ張られて和谷の方に引き寄せられる。ヒカルの体が
碁盤にぶつかり石が散らばった。
「うわ…っ」
ヒカルは和谷の体の脇に倒れ込み、和谷がそのまま上にのしかかって来た。
「…止めろよ!」
ヒカルは和谷を押し退けようとするが、顔が覆いかぶさるように来て唇を
奪われる。それでも激しく足を振り上げて和谷の横腹を蹴り上げる。
「うっ」
和谷は顔を離し、ヒカルの両手首を掴んで床に押し付けたままヒカルの
腹の上に座り直す。ヒカルは肩で息をしながら、なおも体や足を動かして
和谷から逃れようとする。ヒカルの目は怒りに燃えていた。
「…もう一度キスしてみろ…舌を噛み切ってやる…!」
自分の事を裏切った和谷が許せなかった。そして、伊角も。何故だ、としか
頭に思い浮かばない。何故自分がこんな目に合わなければならないのか。
その伊角が、ゆっくりヒカルに近付いて来た。膝をついてヒカルの上半身に
被さるようにしてヒカルの頬を両手で挟み、睨みつけてくるヒカルに話す。
「…見たんだよ。オレ。…夜、お前が緒方先生の車に乗るところを…。」
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