初めての体験 79


(79)
 佐為の声がヒカルにそれを告げる。ヒカルは、素直にその命令に従った。この出口のない
快感を何とかしてくれるのならば、ヒカルは、悪魔の命令にも従うであろう。そうして、
机の上のそのペンを取ると、再び、ベッドの上に這った。
 指でよくほぐされたそこは、簡単にそれを受け入れた。無機物の冷たい感触に、
ヒカルの身体は震えた。先ほどと同じように、ゆっくりと、そして、徐々に早く動かし
始めた。
「あ…ああん…いい…きもちいい……きもちいいよぉ…んん…」
ヒカルの口からひきり無しに、嬌声が漏れる。小さな尻が、大きく揺れた。
「はぁ…あん…ああ―――――――」
ヒカルは、二度目の精を放った。


 「佐為…すごくよかった…碁を打つとこんなにいいんだね…」
ヒカルの潤んだ瞳が、うっとりと佐為を見つめた。
「強い相手と打てば、もっといいですよ。」
「相手が強ければ、強いほど得られる物も段違いですからね。」
佐為は、愛おしげにヒカルを見つめ返した。
「強い相手と対峙するだけで、気持ちが高揚し、恍惚感が体中を支配するのです。」
 佐為の言葉は難しすぎて、ヒカルにはよくわからなかった。わかるのは、強い相手と
対局すれば、もっとすごい体験ができると言うことだけだ。
「強い相手?塔矢みたいな?」
「ええ…塔矢でも塔矢の父親でも…とにかく強い棋士と一局でも多く打つことです。」
ヒカルは、先ほどの余韻に浸りながら、目を閉じた。
「オレ…塔矢と打ちたいな…打てるかな…」
「きっと打てますよ。ヒカルは、今よりもっと強くなりますからね。」
佐為の力強い言葉に安心して、ヒカルはそのまま眠ってしまった。そのあどけない寝顔は、
佐為を信頼しきっていた。

 ともあれ、この一件で、ヒカルの碁に対する認識と情熱が、ひどく歪んだ物になったことは
間違いなかった。




――――――パタン、とシステム手帳を閉じた。
 ヒカルは、手帳を鞄の中にしまうと、そのまま、鞄を肩に背負った。
「佐為……オレ頑張っているからな……」
ヒカルはそう呟くと、神の一手を目指すべく、対局場へと向かった。

<終>



TOPページ先頭 表示数を保持: ■

Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!