失着点・展界編 79
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ヒカルの目の色が、怒りから動揺に変化する。
「あの時、やっぱりお前の事が気になって、途中まで様子を見ていたんだ。
家まで無事に帰れるかなって…。そしたらあの碁会所の前で誰かを待ってる
みたいで、塔矢は日本にいないのに何でだろうって思ったんだ。」
今度はヒカルが伊角から顔を背けるように横を向いた。
和谷が押さえつけていたヒカルの両手を、今度は伊角が掴み、ヒカルの顔の
両脇のところで床に押さえ直す。
「…その時はまさかって思った。でも、前もここであの事があった後、
緒方先生のところに泊まったっていう話しだったし…」
「あ、あれは本当に偶然…」
両手が自由になった和谷は、少し下がってヒカルのズボンのベルトを外した。
「…!」
ヒカルはもがこうとしたが、伊角にさらに強い力で押さえ付けられる。
「次の日の午前、お前の家に行く途中、緒方先生に車で送ってもらうお前を
見かけた。…車の中で、お前、何をした…?」
伊角に問われ、答えられず、ヒカルは目を閉じた。
「…緒方先生とは何もなかったって言うなら、舌を噛み切っていいよ。」
そう言われて突然伊角に唇を吸われ、ヒカルは驚いて目を見開いた。最初は
様子を見るように唇を重ね合わせただけで一度離れた。
「…進藤は、男とこうする事が、好きなのか…?」
二度目は舌が入って来た。ヒカルは歯を閉じようとして、噛む事が出来な
かった。それを了承とするように伊角はヒカルとの深いキスを交わし続けた。
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