Linkage 79 - 80


(79)
「緒方さん、まだ着替えてないんですか?」
 シャワーでアキラが泡を付けた眼鏡もまだ拭いていない緒方に、アキラは苦笑した。
「……ああ。いま先生から電話があってね。朝食を用意してあるから、家で食べなさいと
おっしゃっていたよ」
 アキラは僅かに強張った表情を浮かべながら、頷いた。
だが、気を取り直して緒方の眼鏡に手を伸ばす。
「ボクが拭くから、緒方さんはその間に着替えたらどうですか?」
 緒方はアキラの好意に素直に甘えることにした。
眼鏡を外してアキラに渡すと、寝室へと向かう。
緒方の服は上下とも黒だったため、泡が消えた跡が白く残っていた。
服を脱ぎ、クローゼットから煉瓦色のシャツと焦げ茶のスラックスを取り出して、
手早く着替える。
ベルトを締め終わると、脱いだ服を手にリビングへと戻った。
「……服、汚しちゃってごめんなさい。それからこれ、眼鏡」
 申し訳なさそうに言うアキラに、緒方は首を横に振ると、アキラの手から綺麗に
磨かれた眼鏡を受け取る。
「オレが勝手にやったことだ。アキラ君が謝ることじゃないさ。眼鏡、ありがとうな」
「このセーター、凄く柔らかくて、触ってて気持ち良かったなぁ……」
 緒方が手にするセーターを嬉しそうに触るアキラの頭をそっと撫で、緒方は穏やかに
語りかけた。
「カシミアという素材で、薄くても暖かいんだ」
「ボクのマフラーも、これと同じ素材かも……」
 アキラはソファに駆け寄ると、鞄を開け、奥からライトグレーのマフラーを取り出して、
緒方に見せた。


(80)
「なんだ。マフラーを持って来ていたのか。昨日、中華街に出かけた時はしてなかっただろ?
寒くなかったのか?」
「昨日はそんなに寒くなかったから……。ここに来る時、途中で鞄にしまったんです」
 緒方は手にしていた服をアーロンチェアの背凭れに掛けると、アキラの側に寄り、柔らかな
カシミアのマフラーを首に巻いてやった。
「今朝はかなり寒いぞ。車の中もすぐに暖房は効かないだろうし、暖かくした方がいい」
 アキラは頷くと、ソファの上に置かれたピーコートを羽織り、鞄を持った。
緒方の言葉通り外は寒く、玄関を出て駐車場まで降りて来ると、アキラはその寒さに思わず
羽織っていたコートの前をしっかり合わせる。
「本当に寒いや……」
「今エンジンをかけたから、ちょっと待っててくれ。まだ暖房じゃなくて冷房みたいな
風しか出ないからな」
 そう言って肩をすくめる緒方に、アキラは震えながらも少し笑って頷いた。



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