平安幻想異聞録-異聞- 79 - 80


(79)
「佐為などの元で飼い殺しにされるには、おしい味よ。お前が、明日から名目上は
 わし付きの警護役として、この屋敷に住み込むというのなら、陰陽師に依頼して、
 あれを縛ってやらんでもないが、どうする」
どうもこうもなかった。
ここに来ると決めた時から覚悟は出来ていた。
佐為の命や、行洋様の命に関わること、自分の心に反することを要求されるのなら、
迷わずにそうしようと。
ヒカルは腰の太刀に手を伸ばし、白刃を引き抜くと、その刃を自分の首に当てた。
その刃を思いきり手前に引いて、すべてを終わらせてしまおうとしたヒカルの手を、
座間の言葉がとめた。
「佐為殿や、おまえの家族がどうなってもいいのかのう」
ヒカルが固まった。
「お前がいなくなり、行き場をうしなった魔物の矛先を佐為殿や近衛の家の者たちに
 向けることなど、たやすいこと。いっそ縛るより金がかからなくてよいわ」
ヒカルの脳裏を、アキラの血に染まった手、佐為の腕の赤い痣の印象がよぎった。
そして、いつも心配ばかりかけている母と祖父の顔。
「さあ、どうする検非違使殿?」
逃げ道はない。
きっとどうにかなるだろうと、誰にも何も言わずここに来てしまった自分は
大馬鹿者だ。
力の抜けたヒカルの手から、太刀がするりと抜け落ち、床板にあたって、
ガランと大きな音を立てた。
「好きにしろよ」
うつむいて、ヒカルはつぶやいた。
「おまえのものになってやる。だから、佐為やオレの家族には手を出すな」
座間が満足げに膝をたたいた。


(80)
気がつけば、すでに日は沈んで、部屋はヒカルの距離からでも座間の顔の判別が
つきにくい程に暗くなっていた。
菅原が手を叩いて侍女を呼びつけ、灯明台を持ってこさせる。
座間が口を開いた。
「証を見せてもらおうかのう」
「証?」
「まずはそう、服をぬげ」
ヒカルは一瞬だけ、座間を睨みつけたが、諦めたように1回目を閉じると、
ゆっくりと立ち上がり、座間の言葉にしたがって、まず縹の狩衣の襟をほどき、
前をはだけて、そのまま袖からストンと下に落とした。
座間と菅原はニヤニヤと笑いながら、そのヒカルの様子を見ている。
ヒカルは次にその下に来ていた白汚しの色の単衣に手をかけた。
瞳はまっすぐ座間を射ぬくように見つめたまま。
単衣の前がほどかれ、繊細な形の鎖骨が、暗い灯明の光に照らし出される。
襟を肩まで落とせば、その薄桃色の小さな乳輪も。ヒカルは肩まではだけたそれを、
狩衣と同じように、ストンと袖から脱いで下に落とした。重い衣摺れの音。
ヒカルの何処か中性的な匂いのする上半身があらわになる。
まだ性的に分化する前の少女のようななめらかな肌。
座間が扇をヒカルに向けて扇を揺らし、先を催促する。
ヒカルは、少しの間だけ躊躇したものの、まず、少しかがんで指貫の足首を括る紐を解き、
ついで体を起こすとゆっくりとした動作で指貫を支える腰帯をほどく。
恥羞に、わずかに指先がふるえた。ほどいた腰帯から手を離せば、その指貫も
パサッと乾いた音を立てて崩れて、床の既に脱いだものの上に折り重なり、
ついにヒカルの裸体があらわになった。
「ほほう」



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