日記 79 - 81


(79)
 「ボクは、進藤のことが一番大切なんです…」
緒方は、アキラをまじまじと見つめた。そんなことは、分かり切っている―――そう言いたげだ。
「だから、悲しませたくないし、進藤が辛そうなときは助けてあげたい…だから……
 進藤が緒方さんを必要だと言うのなら…ボクは……」
先を続けることができない。自分はちゃんとわかっている。それなのに――――――
アキラは、唇を噛んで俯いてしまった。 
 緒方が軽くアキラの肩を叩いた。そして、そのまま自分の横を通り過ぎて、行ってしまった。
緒方は自分の言葉をどう受け取っただろうか?一人前の大人ぶろうとして、失敗したような
気がする。
「進藤に会いたいな…」
せめて声が聞きたい。ヒカルは、アキラにとってのビタミン剤だ。毎日会いたい。笑顔を
見たい。ずっと、一緒にいたい。
 そんなことを考えていたとき、携帯が震えた。見覚えのないナンバー。訝しく思いながらも
出てみる。
『塔矢?オレ。』
――――――――驚いた。
『オレ、携帯買ったんだ。それで……どうかした?』
黙ったままのアキラに、ヒカルが不思議そうに訊ねた。
「……ううん。ちょうど声が聞きたいって思っていたから、びっくりして…」
『オレも…迷惑かなって思ったんだけど、話がしたくて。別に用事はネエんだけどさ…』
ヒカルが照れくさそうに笑った。聞きたかったヒカルの笑い声。
『実は、これ、家からかけているんだ。家の電話があるのにさ。分厚い説明書片手にな。』
アキラは、黙ってそれを聞いていた。ヒカルの声がもっと聞きたかった。
『塔矢?何で黙ってんだよ?オマエもしゃべれよ!オレ、オマエの声が聞きたくてかけて るんだぞ!』
「ごめん。」
アキラは、笑った。こんな他愛の会話で自分は、元気になれる。ヒカルの力はすごい。


(80)
 『………なあ、今度いつ会える?』
少し、沈んだ声。その気持ちは、アキラだって同じだ。
「明日から、地方に行くんだ。昼過ぎには出てしまうから…だから、来週なら…」
『…来週は、オレが……』
ヒカルは先を続けなかった。アキラも何も言えなくなった。当分会えないのかと思うと、
悲しくなる。さっきもらったばかりの元気も、三割ほど減ったような気がした。

『……花火…』
「えっ?」
『今度会ったとき、あの花火しような!』
そう言って、ヒカルは一方的に電話を切ってしまった。
 ヒカルが切ってくれて助かった。自分からは、絶対に切ることが、できなかっただろう。
深く息を吸い込んで、呼吸を整える。
「さあ、頭を切り換えなくちゃな。」
七割り増しの元気を糧に、アキラは対局場へ戻った。


(81)
 翌日の昼近く。ヒカルが、自室で碁の勉強しているとき、電話のベルが聞こえてきた。
「おかあさーん!いないのー?」
ドアを開け呼びかけるが、電話は一向に鳴り止まない。慌てて、階下に降りていき、受話器を
取った。
 電話の主は、花屋だった。ヒカルが、ずっと待っていたものが入荷したのだ。ヒカルは、
慌てて服を着替えると、家を飛び出した。玄関を出たところで、母親に会った。買い物かごを
下げている。
「あら、出かけるの?」
「うん。ちょっと行ってくる。」
ヒカルは、跳ねるように走っていった。
 ヒカルは、アキラに“ヒカルの”リンドウを見せたかった。急いで行けば、アキラはまだ
いるかもしれない。



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