平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 79 - 82


(79)
自分をだますのは案外簡単だった。
ヒカルはアキラに抱かれながら、佐為に感じていた。
アキラのもの静かでいて、どこか苛烈さも含んだ瞳の色は、思ったよりも
ずっと佐為に似ていた。
着痩せするのか、見るよりも実際に触れてみるとしっかりとした彼の体つきも、
それを手伝った。
ただ、その背に回した自分の腕に、長く艶やかな髪が絡まる感触がないことが
寂しかったけれど。
(おまえ、髪延ばせよ)
ヒカルは勝手なことを思った。
そして、何よりも決定的に違うのは、ヒカルの中に直接入り込んでいる、
あそこの形。
佐為のその体の線も、入ってくるモノの形もヒカルの体が一番よく覚えている。
だから、やっぱりアキラは佐為ではないのだと、ぼんやりと考える。
しかし、ただひたすらに佐為を求めるヒカルの体は、それさえ、佐為のもの
だとして、自分に思い込ませることに成功してた。
今日だけは、今だけは、幸せな夢をみていたいのだ。
喘ぎ声の合間に紛れて、ヒカルはアキラに懇願する。
「名前。名前、呼んで…」
姓ではなく、名前を。佐為が、かつてそうしていたように。


アキラがその背に腕を回して抱きしめると、普段の威勢のよさが信じられないぐらい
に、ヒカルは大人しく目を閉じた。
「喉、唇で……」
ヒカルの言う通り、喉に唇を押し当てた。それだけで閉じたまぶたが震えた。


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「それで?」
「噛みながら、上に……」
熱のこもった、だが小さな声でつぶやくヒカルの言葉を受けて、アキラはその唇を、
その首の根元に近い位置からうなじのほうへとゆっくり這わせ、途中途中で軽く
歯をたてる。
ヒカルの臥せられた睫毛がわなないて、切なげな声が漏れる。
衣を脱がしてそのヒカルの肌の白さと柔らかさに驚いた。いつも着物からのぞく
腕や首が健康そうに淡く日に焼けていたから気付かなかった。自分も家にこもる
ことが多いせいか色は白いが、ヒカルの場合は日に焼けて普段目に見える部分
との差もあって、より白く感じる。
アキラの手は今、ヒカルの手に導かれ、その白い肌の上を這っていた。重ねられた
ヒカルの手の平は汗ばんで熱い。
背筋を丁寧にたどり、尻の谷間のギリギリまで侵入し、円みを帯びた臀部を手を
回すようにしてさする。
もっと優しくして欲しいというヒカルの要求に応えて、触れるか触れないかぐらいの
あやふやさで、その脇腹に手の平を往復させれば、それだけで、甘やかな声があがった。
ヒカルが、アキラを引き寄せるようにして、自ら体を後ろに倒した。
アキラもそれにならって、床に広がった衣の上に身を横たえるヒカルに体を重ねる。
ともすれば吹き飛びそうになる理性を必死にたぐり寄せ、『今の自分は佐為なのだ
から』と心に何度も言い聞かせながら、その皮膚に点々と口付けの後を残していく。
しかし、ヒカルが自ら手を伸ばし、アキラの着物をはだけさせてこちらの胸に唇を
押し付けてきた時には、その仕草のいとけないさに、さすがに我を忘れてむしゃぶり
つきそうになった。
その衝動をねじ伏せるように押さえ込んで、アキラはヒカルに言われるままに、組み
敷いた体に柔らかな愛撫を施し続ける。
ヒカルの手がアキラの腰に延び、その指貫を脱がせた。
自ら足を広げ、その間にアキラの体を導き入れて、アキラがかつて見たことない
ような、今にも泣きそうな顔で「来てよ」と訴える。
アキラは、固く反り返った自身の肉刀をその場所に添えたが、さすがに不安に
なって、ヒカルの顔を見ると、彼が小さく頷いた。


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思い切って肉刀を突き入れた。
「あ…あぁぁっ!」
アキラに抱きしめられたヒカルの体が一気に収縮した。
入れられたそれだけで、ヒカルは精を放っていた。同時にきつく締め付けて
きたその肉の輪の感触に、アキラもまた、自分の中のものを放ってしまっていた。
早すぎる終わりにどうしたらいいのか戸惑うアキラにかまわず、ヒカルは肩で息を
つきながらも、腰をゆらして続きをねだる。
その動きに、アキラのそれはすぐに力を取り戻し、ヒカルの中で固く自己を主張
しだした。
まだやっと尖端の雁首が入っただけのそれを、アキラはゆっくりと奥に押し進める。
肉刀を押し包む、筋肉の甘い感触に眩暈がしそうだ。
味わうようにじっとしていると、ヒカルがアキラの肩を抱きしめて頭を寄せ、
耳元に囁いた。
「動いて。少しずつ」
なるべくヒカルの希望に添うように、アキラはまず、ゆるゆると小刻みに中の
自身を抽挿してみると、ヒカルの男根も、開放したばかりだというのに、まるで
そんなことはなかったかのように再びきつく立ち上がった。
力を得たアキラが肉刀を奥に押し込むたびに、中の媚肉がそれに応えるように
締め付け、飲み込む息とともに、ヒカルの喉が何度も笛のようなか細い悲鳴を
あげた。――甘い悲鳴だった。
一度だけ、アキラは近衛ヒカルが、こんな蠱惑的な声を上げるのをきいたことが
ある。あれは二年も前。
賀茂の屋敷で二人きりで夜を迎え、呪の念によって放たれた淫邪の蛇に襲われた
時だ。だが、あの時聞いたどこか悲痛な響きのあった声とは比べることも出来ない
ほどの艶が、その喘ぎにはあった。
アキラは徐々に、腰の押し出しを強め、より深くへとその体を貫いていく。
ヒカルの腕が、アキラの背で何かを探すように動いていた。
また、下肢は妖しく揺れている。


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この段階では、既にああしろこうしろとアキラに指示するのもおっくうで、
ヒカルが自ら気持ちのよいところに当たるように腰を動かしているのがわかった。
「名前。名前、呼んで…」
ヒカルが薄く目を開けて、アキラを見ていた。
「ヒカル――」
「あ……」
名を呼べば、それでけで明らかに反応が違った。
「ヒカル」
「あ……あ……や……あっ……」
アキラがその内壁を突けば突くだけ、抑えきれないよがり声が、ポロポロとその
口からこぼれて落ちる。
睫毛を露に濡らしてヒカルは横を向くと、下に敷かれた衣の端を口に含んだ。
それで声は抑えられたが、目の前の白い首筋が波打つ様は、実際に声を耳にする
以上に、アキラの官能を刺激した。自然と、打ち付ける腰の動きは強く速くなる。
「んっ、んっ、んんっっ…、ん」
「ヒカル……」
「んっっ! んっ」
「ヒカル、ヒカル……!」
「ん…、ぅんんっっ、ん!んん!」
互いの実が限界を迎えて弾ける直前、唐突にヒカルはそれまできつく噛んでいた
布を放すと、強引な程の力でアキラの顔を引き寄せ、唇を重ねてきた。アキラも
夢中になって、その唇を吸い上げていた。
最初に頂点の地を踏んだのはアキラだ。
アキラが吐きだした樹液の熱さを中で受け止めて、ヒカルがその後を追った。
「ん―――っ!んっ!」
淫液がアキラの腹を濡らした。
ヒカルの体が足の爪先までつっぱって、腕の中から逃れそうになるのをアキラは
力を込めて抱き留める。
彼の口から上がった淫声を外に漏らすのがもったいないような気がして、
より唇の交わりを深くする。
自分の下で、ヒカルの体がゆっくりと力を失っていくのがわかった。



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