少年王アキラ? 8 - 10
(8)
そんな簡単なパスワードでいいのか。言われるままにカチャカチャとパスワー
ドを入力しながら、オガタンは苛々と舌打ちする。
「そんな簡単なパスワードは駄目じゃないか。まぁ、キミの名を騙ってログイン
するような奴はここにはいないか」
オガタンはしばらく逡巡したあと、おもむろに<<緒方精次@ヒカルの碁>>と入
力した。
「緒方精次? なんだそれは」
少年王は見慣れない文字列を読み上げ、オガタンの顔を見上げる。眉間に皺を
寄せたオガタンは厳しい顔のまま顎で隣のデスクトップパソコンを指し示した。
「いいから早くそっちにも入力しなさい」
「さっきから、なんか偉そうだぞオガタン」
今日は気分がいいから許してあげるけど、明日なら確実に刑執行ものだぞ。ア
キラ王は親指を噛んで悔しさを滲ませた。
「あなたが入力してくれないと、本選には付いていきませんよ」
「……わかった」
少年王はキュートに唇を突き出して不満を表わしながら、同じように入力した。
「そうしたら、書き込むボタンを押して完了――だ」
「うん」
一斉にボタンをピコンと押すと、とてつもなく大きな任務をやり遂げたような
達成感が2人に訪れた。
(9)
「よし、瀬戸際で2票入ったから多分オレは見事敗者復活を遂げたな。――集計
が楽しみだ」
額に滲んだ汗を拭い、オガタンはメガネを取って少年王に微笑みかけた。
「フフ、キミも1票投じてくれたから、1位かもしれん」
ハマグリゴイシの背に乗せるべく、今度は自発的にアキラ王をその腕に抱きあげ
ながら、オガタンは夢見るような表情でうっとりと呟く。
「フフ、アキラくんとレッドとオレによる本選……悪くない」
不幸なことに、オガタンはトーナメントの方法をあまりよく知ってはいなかった。
「あ、反映されたみたいだ。……でも、23時2分になってる。これは無効になる
と思うけど」
丁度ディスプレイがよく見える位置で抱き上げられていたアキラ王は、オガタン
が放り投げたメガネを弄りながら報告する。またしても「ぎゃっ」という醜い声が
聞こえてきたが、もう少年王も周りをきょろきょろ見渡したりはしなかった。
(オガタン…可哀相に…)
「なに! …クソ、オレとしたことが時差を計算に入れてなかった……!」
この宇宙船と2ちゃんねるでは、時間の流れる速さが4イゴイゴほど違う。例えば
宇宙船の中で1日過ごしている間に2ちゃんねる内では4日も過ぎているような状
態であるが、オガタンは焦るあまりにすっかりそのことを忘れていたのだ。
アキラ王は彼の主治医の顔を見てみたかったが、先に精神的ダメージを受けるかも
しれないという防衛本能が働いた。
(10)
唇を震わせて悶絶しているオガタンにかけてやる言葉を、少年王は思いつかなかった。
手持ち無沙汰になったアキラ王は、何となくピンクのチェリーを握り締める。これ
をやると寝つきが格段に良くなるということを最近自覚し、この時間には大抵ピンク
のチェリーと戯れているのだ。
「――まあ、大丈夫だよオガタン。きっと敗者復活できるから」
「どうせなら1位通過がカッコイイじゃないか」
慰めにもならないようなことを淡々と訴え、少年王はチェリーをエリンギ化させる
ことに集中しはじめた。
「それよりも……あ、レッドとのこと……よろしく頼んだぞ」
レッドのことを考えると、それだけでチェリーがアスパラガスほどには成長してしまう。
「レッドと初めてのキッス。どんな味がするかなぁ……レッド…あ…あ…」
オガタンの腕の中で、少年王はくいっと身体を撓らせた。足の指を全部丸めて、
両手でアスパラガスを握り締めている。
ぎょっとした顔でその様子を見ていたオガタンの目の下がピクピクと震え出した。
「……この状態で他の男の名前を呼ぶか? 普通…」
「ああんレッドぉぉ……」
しかし、少年王は自分の欲求にあくまでも忠実だった。
感極まった少年王の甘い叫びと共に、チェリーの中央から放出されたものは見事に
彼の成長を見守ってきたオガタンの顔に命中した。
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