初めての体験 Asid 8 - 14
(8)
「じゃあ、さよなら。和谷君。」
ボクは、今度こそ本当に彼に背中を向けた。背中に視線を感じたが、振り返る必要は
ないだろう。
汚れたハンカチを丸めて、ゴミ箱に捨てた。その時、後ろから声をかけられた。
この声は…!
「進藤!」
胸が弾む。喜びを隠しきれない。ああ〜ドキドキする。え…あれ?何か怒ってる?
「もう!一緒に帰ろうって言っただろ!なんで待っててくれないんだよ?」
進藤、拗ねた顔も可愛いね。そのまま、棋院のトイレに連れ込んで、いけないことを
したくなるよ。この手錠を使ってね…。でも……良かった…。使わずにすみそうだ。
あー、すっきりさせといて正解だった。
ありがとう、和谷。キミのお陰で、ボクがこの手の道具を使うためには、いろいろと
勉強する必要があることがわかったよ。進藤も傷つけずにすんだ。
その道の達人は、苦痛も快感も指先の力加減一つで思いのままに操るという。幸い、
ボクは、勉強は嫌いじゃない。目的のためには、努力も惜しまない。色々と実践すれば、
上達も早いだろう。
進藤に笑いかけた。進藤は、ポッと頬を染めて、ボクを見つめ返した。
「ごめん。時間が余ったから、ちょっと屋上で休んでいたんだ。」
「なあんだ。いつもの場所にいないから…オレ、てっきり、おいて行かれたかと…」
照れ笑いをする進藤も実にラブリーだ。要するに、進藤は何をしても可愛いということだ。
「なあ、塔矢…今日、オマエの家に泊まってもいい?」
進藤が、はにかみながらボクを見上げる。なんて、可愛いんだ!!!
今夜は、きっとイイ気分で眠れるはずだ。ボクの頭の中で、今日の和谷の姿は、既に進藤に
置き換えられている。……そして、いつかは本物の進藤と………。
待っていてくれ、進藤。きっと、すべての技を修得して、キミを快感で咽び泣かせてみせる!
新たな目標を前に、ボクは体中の血が滾るのを感じた。
――――――とりあえずは、どこかで鞭を手に入れるか……。隠し場所も確保しないとな。
そんなことを考えていると進藤が、大きな目でボクの顔を覗き込んできた。ボクの返事を
待っている。
「もちろんだよ。」
ボクは、優しく笑って言った。
おわり
(9)
ボクは、進藤と自分の明るい未来のために、頑張ろうと思った。テクを磨こうと決心
したのは良かったが、生憎、その相手が見つからない。和谷はあれ以来、ボクの顔を
見ると、真っ青になって大慌てで逃げてしまう。
いろいろ物色をしているが、なかなか思うような相手は見つからない。ボクの計画は、
最初から躓いている。もう、溜息すらでない。
『この際、越智でもいい』とさえ思った。越智の指導碁の仕事は、結構楽しかった。
ことあるごとに「進藤に負ける」とプレッシャーをかけて遊んでやった。だいたい、ボクの
進藤に勝とうだなんて、五十六億七千万年早いのだ!だが、そのプレッシャーが却って、
越智の闘志に火をつけてしまったらしい…。あの時はごめんよ、進藤。越智の戦意を
喪失させようと思ったのに、逆にキミの足を引っ張ってしまって―――でも、越智との
対局で、キミが困ったり、悩んだりしているところを想像すると堪らなくなったんだ。
ワザとじゃなかったんだけど……いや、ちょっとは…かなりかな……ホント、ごめんよ。
その姿を、物陰からこっそりと見守りたいと思った。仕事さえなければ…。サボりたかったが、
プロ試験は研修センターで行われるため、そこに来ている関係者に見つかる可能性が
高いので、泣く泣く諦めたのだ。
仕事が終わって、プロ試験の時の進藤の様子を訊こうと、越智の家を訪ねたら……奴は、
あろう事か、ボクを門前払いにした!!ああ、きっと、可愛かっただろうな……困って
いる進藤は……。
あの可愛い唇を噛み締めたり、眉間にしわを寄せたりしていたのだろうか…?見たかった
……それが叶わないのなら、せめて話だけでも……。くっ!あいつは、今日の進藤を
独り占めするつもりなんだ。今頃、進藤が困っている姿を思い出して、鼻息も荒く自分を
慰めているに違いない―――と思った。あ―――あの日のことは、今、思い出しても
ムカムカする。
その時のお礼も含めて、越智を捜したが、今日は手合いの日ではないようだ。残念だ。
(10)
とりあえず、自分の家で、枕を相手に練習をする事にした。本を片手に、結び目の
強弱を確かめながら、枕を縛り上げていく。
いろんな縛り方があるんだな…………ふう…むなしい――――――
やっぱり、枕相手では盛り上がらない。
せめて、オランダ人妻を手に入れるべきだろうか?だが、あの顔を見ると笑ってしまいそうだ。
リアル何とかには、興味がない。ただ、練習をしたいだけだからな…。まあ、進藤に
そっくりな人形なら、いくらつぎ込んでも惜しくないけどね。一瞬、オーダーメイドを
頼もうかとも思ったが、やっぱり、本物には勝てない気がする。それに隠し場所に困りそうだ。
ボクは、黙々と枕を縛り続けた。端から見ると、これってどういう光景なんだろ?
ボクは自分がまともではないのを自覚し、そのことを受け入れてはいるが、客観的に見て、
枕を縛り上げる自分の姿は変だ。ものすごくヘン!――――だと思う。それを考えると
情けなくなるので、ボクは手元にだけ意識を集中させた。
そんな状態だったので、玄関のチャイムが鳴っていることに、暫く気がつかなかった。
「おーい…アキラ――――いないのかぁ?」
あの暢気そうな声は……芦原さん!?チャンスだ。ボクは、手早く枕と本をベッドの中に
押し込むと、玄関へと向かった。
(11)
「なんだ〜いるんじゃないか〜。」
「すみません。ちょっと、うとうとしてて…」
のんびりと文句を言う芦原さんに、ボクは適当ないいわけをした。そして、部屋の中に、
芦原さんを招き入れながら、ボクは、彼の全身をさりげなく眺めた。進藤の身代わりに
するには、少々、薹が立っているが、まあ、何とかいけるんじゃないだろうか?
現実は想像力でカバーするとして、問題は、どうやって縛り上げるかだ……。アレは、
相手、もしくは第三者の協力があってこそ、できる技ではないだろうか?芦原さんは、
ボクよりも身長も高いし、力も強そうだ。…やはり、身体の自由を奪うしかないだろう……。
昔は、目薬を飲み物に混ぜるとイイとか言っていたが、最近では成分が変わっているらしいし…。
ネットで手に入れた妖しげな薬を使うか…まだ、自分で試していないモノを芦原さんに
使うのは気が引けるが…今日、ここに来てしまった自分の不運を嘆いてください。
ボクはとりあえず薬類は、自分で試してから使おうと思っていた。でないと、どんな効果が
あるのかよくわからないからだ。既に、幾つか試してみた。いい気持ちになるモノもあれば、
最悪なモノもあった。今日使うモノは、どんな風になるのだろう…ちょっと楽しみだ。
「何だよ、アキラ?ニヤニヤして…」
「ううん、別に…」
これから起こるであろうことへの期待で、ボクの胸は高鳴った。
(12)
ボクは、濃いめのコーヒーを入れ、その中に砕いた錠剤を落とした。ワクワクする。
ごめんね。芦原さん。
にっこり笑って、カップを差し出した。
「うっ!苦いな…」
芦原さんは顔を蹙めた。
「ごめん。水の加減間違えたみたいで…」
如何にも申し訳なさそうに言う。ホントは、口先だけなんだけどね。
芦原さんは、「いいよ、いいよ」と笑顔で答える。うぅ…胸が痛い。こんなボクにも、
一応、良心らしきモノはあるらしい。でも、やめようと思わないところが、ボクのボク
たる所以だなあ…。
芦原さんはボクに気を使ってか、苦いコーヒーを残さずに全部飲み干した。よしっ!
ガッツポーズは心の中で!後は、薬が効いてくるのを待つのみだ。
ボクは芦原さんに対局を持ちかけて、その間、効果が現れるのを待つことにした。
碁を打っている途中で、芦原さんの身体が大きく揺れた。
「あれ…?」
「大丈夫ですか?芦原さん…」
畳の上に手をついて、身体を支える芦原さんに白々しく声をかけた。芦原さんの息は荒く、
苦しそうに胸を押さえている。これは…マズイ…かな…?背中をさすりながら、芦原さんの
様子を観察した。
俯いている芦原さんの顔を覗き込むと、頬は赤らみ、目が潤んでいた。口は半開きで、
そこから切なげな吐息が漏れていた。よし!いける!ボクは、芦原さんを横たえると、
シャツのボタンを一つずつ外していった。
「アキラ…?」
「苦しいんでしょう?服を緩めた方がいいですよ。」
ボクの言葉に、芦原さんは素直に頷いた。ズボンのベルトに手を掛けたときでさえも、
逆らわずにじっとしていた。
(13)
芦原さんの衣服を弄りながら、ボクは考えた。全部脱がして縛るのと、衣服を一部つけたまま
とでは、どちらがイイだろうか…。ボクとしては、一部だけ身につけるというのが、
どうもソソるような気がする。
ボクは、シャツはそのままにして、芦原さんのズボンと下着をずり下げた。
「ア、アキラ―――――!?」
これには、芦原さんもさすがに慌てて、起きあがろうとした。だが、力が入らないのか、
すぐにくたりと倒れてしまった。それをいいことに、ボクは、彼の下半身を完全に裸にした。
芦原さん自身は、もう勃ち上がりかけていた。それは、進藤のモノとは違って、大人の
男のモノだった。何だか、興奮してきた。ボクが、そっと触れると、芦原さんの身体がビクッと
震えた。
「ふぅ…ん…」
手の中のモノをゆっくりと上下にさすると、芦原さんが、鼻から抜けるような息を吐いた。
「気持ちいい?」
芦原さんを弄びながら、目を覗き込んだ。彼は、顔を赤らめ目を逸らした。そして、
ボクから逃れようと力無く抵抗を始めた。
「や…やめてくれ…たのむ…」
その言葉とは、裏腹にボクの手の中のモノは、熱く猛っている。それなのに…だ。
ああ、そうですか。嫌ですか。少し、意地悪をしたくなった。本気で言っているわけでは
ないことは、わかっている。
ボクは、彼から一旦離れた。
(14)
その途端、芦原さんが弾かれたように顔を上げて、ボクを切なげに見つめてきた。
「どうしたんですか?お望み通りでしょう?」
意地が悪い。彼の本当の望みはわかっているのに―――――
ボクは、ニヤニヤ笑って彼を見た。芦原さんがそれを口にするまで、ボクは彼には
触れないつもりだ。
芦原さんは何かを言いかけては止めるを、何度も繰り返していた。薄い紅色に染まった
太股を堅く閉じ、両の手で身体を掻き抱くように震えている。なかなか、色っぽい風情だ。
芦原さんも、こうしてみると結構いいかも……。まあ、ボクの進藤には及ばないけどね。
どれくらいそうしていたのか…暫くして、芦原さんは、潤んだ瞳をボクに向け、吐息の
ように密かな声で訴えた。
「アキラ…たのむ……してくれ…」
ボクは、「何を?」とは訊かない。芦原さんから、その言葉を引きだしただけで、とりあえずは
満足だ。だって、これからもっと酷い目にあう彼を、これ以上虐めては可哀想ではないか。
「ボクがそのお願いを訊いたら、芦原さんもボクの頼みを訊いてくれますか?」
芦原さんは、必死に頷いた。
「ホントに?」
「きく…何でもきくから…たのむ…」
涙を含んだ声で、途切れ途切れに訴える。やった…!それでは、本人の了解も得たことだし、
ちょっと練習させてもらおうかな。
ボクは、ベッドの中に隠した物を引っぱり出した。
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