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トーヤアキラの一日 8
(8)
睨みつけていた視線を和らげると、ヒカルはため息をついた。
そして、悪戯をした子供を諭すようにヒカルは言う
「お前なぁ、喉仏に触れるって・・・・普通、外からだけだろ。舌で口の中から届くわけ無いだろ?」
「うん、ごめん」
「もー、絶対に食事中に変な事すんなよ!」
ヒカルがそれ程怒っていない事がわかると、アキラは体を起こしてヒカルの手を取る。
「もう絶対にしないから。食事を続けよう」
疑いの眼差しで見ているヒカルだったが、食欲には勝てないらしく、アキラの手をさりげなく
振り払い、少しアキラから離れた位置に移動して何事も無かった様に食事を続けた。
この事があった後も、ヒカルが食べている喉元を見ていると、アキラは体の奥底が疼くのを
止める事が出来ない。最初は喉の奥まで味わいたいと言う感情だけだったが、最近は口だけでは
なく、別の場所の奥底まで舌で味わいたい衝動にかられる。もうしない、と約束した以上、
食事中に襲い掛かって喉を味わおうとする事だけは、何とか自制しているアキラだった。
ヒカルはアキラのこうした突飛な行動を、大抵の場合は、怒りながらも受け入れてくれた。
ちょっと口を尖らせたり、少し大声を出す時は、本当には怒って無いのである。本当に受け入れ
られない時は、ヒカルは大声を出した後に押し黙ってしまうのである。その時は、周りを寄せ
付けない空気を漂わせており、アキラと謂えどもどうする事も出来ずに、ただヒカルの表情が
和らぐのを待つだけなのである。
一人の食事を終え、皿を洗うと、8時40分になっていた。部屋に戻って机の上にある封筒を確認
する。中には、消費税込みで「9,922円」きっちりが入っている。今日の午前9時から正午までの
間に、代金引換宅配便で商品が届けられる事になっているのだ。午前中のいつ来るか分からない
ので、出かけるわけには行かない。両親が不在なので、自分以外に受け取る人間は居ないので
あるが、中身の事を考えると、絶対に自分で受け取らなくてはいけない。
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