○○アタリ道場○○ 8
(8)
その頃、塔矢邸玄関先に1人の男が立っていた。
それは緒方兄貴。塔矢門下一の出世頭である兄貴は いつも上下純白の
スーツ・紺のシャツ・黄色のネクタイという格好に徹している。
一見さまになってはいるが、純白の上着の変わりに赤の上着を身に付ける
と、実はルパンと同じ格好になってしまうのを他の門下生達は分かって
いるが黙っている。
ルパンネタは塔矢門下生、また囲碁界の禁句内容なのは暗黙の了解だ。
兄貴のスタイル。それは、お笑いとシリアスは まさに紙一重だという事
を無言で物語る。
兄貴は、偶然塔矢邸の近くを通ったので、一応様子がてらに足を向けた。
「そういえば、先生と奥様は今日に韓国に行かれたのだったな」
兄貴にとって おかっぱは、赤ん坊の頃から知っており、従兄弟・弟に
似た感情を持つ。手には、有名メーカーのプリンを携えていた。
が、何故か邸宅の中から、歌声が微かに聞こえくる。
「・・・アキラくん、何か音楽でも聴いているのかな?」
(※現在 塔矢邸台所、ぬか床前にて塔矢おかっぱ三段によるアンパンマン
の歌を生ライブ中)
機嫌良くぬか床をコネコネしながら、アンパンマンを歌うおかっぱの耳に、
呼び鈴が聞こえた。
急いで手を洗って玄関に向かい、ドア越しに「ハイ、どなたでしょうか?」
と、訪ねる。
「アキラくん、オレだよ」
「緒方さんですか?」
聞き覚えのある声におかっぱは、パッと顔を明るくし、玄関の鍵を開ける。
「近くを通ったまでに寄ったのだが、もう先生と奥様は出かけられた
のか?」
「ハイ、つい先ほどですけど」
兄貴は邸宅の奥を眺めながら耳を澄ますが、特に音は聞こえない。
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