初詣妄想 8
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昨日の主な話題は、緒方とアキラの新年の抱負、そして何より、
行洋の海外での活動についてと言ったようなところだった。
棋院の職員も、門下生も、みんなで行洋を囲んで話をねだり、
また行洋はそのどんな要求にも応えて色々な話をし、
その話題に尽きることはなかった。
芦原は、いつものことではあるのだが、まじめな話の一つ一つにも
いちいち細かく拾っては絡み、指さしながら笑い続ける。
それがあまりに酷いので、行洋から窘められるのだが、
芦原は「すみません、先生」と口では謝りながら、その自分の言葉にすら
笑い転げてしまうので、結局は呆れられ、放っておかれてしまう。
今回もまた、その通りだった。
緒方は、新しくタイトルを取った自分よりも、引退した行洋が話題を攫っているのが
面白くないようで、普段はあまり日本酒は飲まないにもかかわらず、
一升瓶を抱え込んで一人でがぶがぶと升酒を飲み続けてはアキラを捕まえ、
ぶつぶつと何かを呟いていた。
門下生はたいがい泊まっていく習わしだが、アキラが家を出るまで
緒方が起きた形跡はなかった。かなり飲んでいたし、
たぶん二日酔いで起きれないでいたのだろうとアキラは思っていた。
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