光明 8
(8)
見事な食べっぷりに目がクギ付けになっているアキラに「お前 まだ肉まん欲しいのか? 結構食い意地悪いな。」と
ヒカルは口をモゴモゴさせて言った。
ムッとした表情で「一つで結構!」とアキラは言い、「そのセリフはキミのほうだろ」という言葉を
グッと飲み込んで肉まんをひと口ずつちぎって口に入れた。
「おっ 雪止んだな。」とヒカルは空を見上げながら言った。
ヒカルにつられてアキラも空を見上げた。
その時「ゴオォォーン」と何処かの寺院の除夜の鐘が澄んだ夜の空気に溶け込んで低く響き渡った。
時計は すでに23時を過ぎていた。
フッとヒカルはアキラの横顔を見て目が何処となく虚ろで いつもの覇気がないことに気が付いた。
アキラは たまに強引な行動をする時はあるが、その行動には それなりの理由があり
闇雲に動くタイプではない事をヒカルはよく知っていたので今日のアキラは かなり不自然に感じた。
「お前さ オレの家に来たのって何か理由があるんだろ? 何かオレに話したい事でもあるなら話せよ。
オレの家の前で黙って立ってんなよ 水臭ぇなあ。オレはお前だと すぐ分かったから良かったけど
知らないアカの他人だったらマジ怖えぇよ。」
アキラは黙ってまだ空を見ている。
「まあオレに話しても意味ないなら別にいいけど。」とヒカルは少しヒネた表情をした。
しばらく空を見ていたアキラはヒカルの方へ顔を向けた。
ふてくされた顔をしたヒカルをアキラは しばらく見て、やがて重い口を開いた。
「今日 用事で縁のある寺に行ったんだ。そこで お坊さんに指導碁を打った時
神の一手を目指す事は碁の神様になるのと同じだと言われたんだ。
それを聞いてボクは神の一手の意味を実は全然分かっていなく それを目指す覚悟が
まだ足りない事に気が付いてしまったんだ。正直少し恐ろしくなった。」
二人の間に沈黙が流れた。
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