クチナハ 〜平安陰陽師賀茂明淫妖物語〜 8


(8)
桜の頃に出会った二人は、橘が白い花弁を開く季節に
どういうわけか友人の一線を越えて結ばれた。
初めて覚えた性交の味をいたく気に入ったらしい光は、それからしばらく
事あるごとにニコニコと明に擦り寄ってきた。
明もまたそれを拒むことなく要求されるままに身を任せていたが、
一月ほど前に睦みあっている最中、残暑の疲れもあって貧血を起こしてしまった。
それを光は、自分が明に無理強いした結果と取ったらしい。
以来、滅多に明に触れて来ないようになってしまった。
触れても、人目につかない所で口を吸ったり、猫でも膝に乗せて撫でるように
明を抱擁して髪だの頬だのを撫でるだけだったりという具合である。
「オマエ、あんま思ったこととか口に出せない奴だもんな。
オレばっかりいい思いしてオマエにきつい思いさせちまって・・・ごめんな。
これからは気をつけるから」
そう光は云っていたが、明にしてみればそれこそ青天の霹靂だった。

確かに多忙な時や疲労が溜まっている時などに光に抱かれることは、
肉体的に負担を感じることもあった。
だが一度たりとそれを嫌だと感じたことはなかったのだ。
寧ろ、この友人が自分と共に一定の時間を過ごすことを望んでくれるのが嬉しかった。
生身の相手と会話するのは苦手だけれども
肉と肉との交わりならばそれほど気を遣わずに済むのも有難かった。
生きた人の肌の温もりに触れるのも新鮮だった。
そして何より、求めてくる光よりも求められる明のほうが、
実は「その味」に夢中になってしまっていた。



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