Shangri-La 8
(8)
アキラは唖然としていた。
黙って切らなくたっていいじゃないか。
何か、やましいことでもあるんだろうか?
慌ててリダイヤルしたが、ヒカルの携帯は留守電だった。
アキラは急に、空寂感に襲われた。自宅の空間の広さを初めて感じる。
身体の中でくすぶり続ける緒方が点した熱が
理由が分からないままヒカルと断絶している現実を変に煽っていて
一人でいることがとても辛かった。
携帯を握りしめたまま、ぎゅっと自分の腕を抱く。
淋しさから逃れたくて、家の中で必死にヒカルを探したが
見つけたのは、部屋にあるヒカルの棋譜のファイルだけだった。
――これ以外に、進藤と僕は繋がっていないんだ…。
考えてみれば、進藤とは、棋院か碁会所か自宅でしか会ったことがない。
囲碁以外の事を二人でしたり、囲碁以外の目的で外出したこともない。
話題も殆どが囲碁のことばかりだ。
僕達はこれでしかつながっていない。たったこれだけ……。
ヒカルとの出会いが囲碁だった以上、当然ではあるが
棋譜の枚数が二人の関係のすべてのようで、その少なさに眩暈がした。
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