白と黒の宴2 8
(8)
車中、アキラは社とは反対を向いて窓の外を見つめる。膝が微かに震えていた。
タクシーの中でも、降りた後でもアキラは社の顔を見ようとはしなかった。
「この前駅まで見送りしてくれたお礼に食事おごりたいんや。それだけや。」
明るくそう話してアキラの肩を軽く抱き寄せ、社はビルの裏手へと入って行く。
「こっちにも友だちが結構おるんや。それでよくこの辺りを利用してる。ええ店があるんや。」
歩きながら社がそう話す「この辺り」とはいわゆる都内でも有名なホテル街だ。
何が食事だ、とアキラは思った。
一見ファッションビル風、ビジネスホテル風のものからいかにもそれらしい建物まで
カラオケB0Xや雑貨店の合間にひしめいている。
時折カップルが通りかかり、大抵は無関心に通り過ぎるが中には怪訝そうに
後から振り返ってヒソヒソ話す者達もいた。
モデル並みの身長と容姿の男同士の華やかなツーショットは嫌でも人目を引く。
「ここや。」
それらの通りを抜けて社が親指で指し示したのはこじんまりした一軒家の洋食屋だった。
「…」
手書きの「本日のメニュー」が小さな黒板に書かれてドアの前に出ていた。
困惑するアキラの肩を再び強く抱いて引き込むように社はドアに手を掛けた。
「おお、清春くん、いらっしゃい。」
ドアベルを鳴らして中に入るとすぐにカウンターの中にいた料理長らしき人物が
声を掛けて来た。
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