通過儀礼 自覚 8


(8)
ガヤガヤと話し声がする。生徒が次々に集まりだしたのだ。加賀は急いでトイレから出よ
うとアキラの下着とズボンを一気に引き上げて着せた。
「ちょっ、ねぇ、碁石! まだパンツの中に入ったままだよ」
アキラは取ってとせがんだ。だが急いでいた加賀は、また脱がして着せるのは面倒くさい
と思い、ズボンを履いたままの状態で手を前から差し入れた。わずかな隙間をぬうように、
加賀の手がアキラの下着の中で動きまわる。
「あん! 痛いよぉ…」
窮屈なそこから思うように碁石を掴み取れないことに焦った加賀の手は容赦なく暴れた。
アキラはその手から逃れようと腰を引く。
「やぁっ、加賀君! ぎゅってしちゃやだよ!」
アキラは目に涙をためて訴えた。加賀が碁石と一緒に珍子を掴み取りしたからだ。加賀は
悪いと舌を出して謝った。だがその顔は次第に不気味な笑みを浮かべた。
「だめだ一個しか取れない。もう始まっちゃうし、後で取ってやるよ」
加賀はそう言って取り出した白石をポケットにしまうと外に出ようとした。
「待って。このままはヤダよぉ」
アキラは泣きそうになって加賀を引きとめた。
「我慢しろよ。もう時間ないんだしさ。あとで絶対取ってやるから」
加賀はそう言うとアキラの小さな手を握り、教室へと連れ出した。
アキラは歩く度にカチャカチャと音を鳴らすそこを手で抑えながら加賀の言う通りにした。



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