四十八手夜話 8
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「そういうんじゃなくって! さっきおまえ、中身の問題だって言っただろ!
オレが言ってんのはさらにその中身の問題なんだ!」
これが碁会所だったら、イラ付いて「もう帰る!」と言って席を立つところなの
だが、裸のままで飛びだすわけにもいかない。
「中身の中身? つまり君はさっき選んだ十五手が気にいらないというわけか!
それならさっき、話しあったとき言ってくれればよかったんだ! なぜその時に…」
「ちがーう! はっきり言うとな、塔矢! オレはな、前戯もなしにいきなり
ソーニューしようとしてるお前のその態度はどうなんだって言ってんだよっっ!!」
アキラはポカンと口を開いたまま、ヒカルを見つめた。
ヒカルは、真っ赤になって続ける。
「だからさ、入れる前にキスしてくれたり、いろんなとこ触ってくれたり、撫でて
くれたりするのが、お前はどうだか知んないけど、オレは好きなんだよ。確かに
一番気持ちいいのは入れられてる時だけどさ、それだけじゃないだろってこと」
こんな恥ずかしいこと言わせるなと、ヒカルはつくづく思う。
「悪かったな。お前の誕生日なのに。オレ、おまえの言うこと黙ってきいてりゃよかっ
たな。この埋め合わせは今度、絶対するから」
ベッドにもぐり込んで、頭から布団をかぶってしまう。
しばらく、静かだったが、布団の上から抱きしめられた。
「進藤、僕が悪かった」
「うるせーな、オレもう寝るから」
「許してくれ」
ヒカルは布団から顔を出した。詰碁の本でも見ているときのような真面目な、
小難しい顔をした塔矢アキラの顔があった。
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