Cry for the moon 8
(8)
「あー、うまかった! じゃ、会計よろしくな。ごちそうさん」
進藤の満足そうな声が響く。本当にこいつは一人でよく食べていた。
「くそ、たくさん食いやがって。おい、一人いくらだよ」
「割り切れないよ。誰が多めに払う?」
騒ぎながら勘定を済まし、出ていく。けど進藤は残って俺に近付いてきた。
「また来るよ」
また来る――――うれしさよりも、悲しさを感じた。
その言葉に縛られて、俺はきっとずっと待ち続けることになるんだ。
そんな自分は哀れで、嫌だ。
「こんなところに来るほどヒマになったらやばいんじゃないの」
「じゃ、タイトルとったら来るってのは?」
そんなに簡単にとれるものじゃないだろう。けど、進藤なら本当にできそうだ。
「……待ってる」
「うん……あのさ、三谷」
進藤は頭をかきながら口ごもった。けど意を決したように話し始めた。
「中学のときは、ごめんな。あんな形で、囲碁部を出て行って。大会、一緒に目指せなく
なって、本当にごめん。もっと早く謝りたかったんだけどさ。ホント、今さらだけどさ。
でも言いたかったんだ」
俺は息が詰まった。言葉が出てこない。進藤は少しでも俺を気にしていてくれてたんだ。
何も言えずにいる俺を見て、進藤は軽く肩をすくめた。
「じゃあな」
片手を振り、進藤が店を出て行く。
俺も言い残した言葉がある。俺だってずっと言いたかったことがあるんだ。
慌てて店を出て、その背に向かって叫んだ。
「進藤! がんばれよ! 応援しているからな!!」
道行く人がふりかえる。進藤は目を見開いたが、ふわりと笑顔になった。
「ありがとう」
笑みの形の唇。俺はその感触を知っている。それはほんの一瞬の、はかない幻。
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