月下の兎 8


(8)
「…塔矢!」
ヒカルは血まみれの手で携帯を握りしめた。そしてよろよろと歩き始めた。
足下に一本の鉄パイプが落ちていたのを見つけ、それを手に取って握りしめた。
倉庫街の奥に駐車場のスペースが開けていた。
点在するライトの中、一台だけ車が停まっていてその近くで、ヒカルは何かが動く気配を感じた。
相手に気付かれないよう物陰にそって慎重に近付く。
廃車らしいその車の向こうに積まれた箱が動いている。ヒカルは車を挟むようにして
移動する。
その時箱の周辺から勢いよく何か黒い影が飛び出した。
「うわあっ!」
思わずヒカルは声をあげて驚き、後ずさった。
一匹の犬がヒカルに一瞥すると走り去って行った。
「脅かすなよ…」
肩から力を抜いてヒカルが構えていた鉄パイプを下ろした時、背後から
何ものかに抱き着かれた。
「…!!」



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