heat capacity2 8


(8)
振り絞るような声だった。
俺はその時漸く、先程塔矢が怒っていたように感じたのは、あいつが自分自身の事を責
めていたからだと気付いた。
本当なら、俺に対して腹を立てられたっておかしくところだろう?
なのに、自分が悪いんじゃないかって、少しも俺の事責めないで。
そうなんだ。こいつ、結局の所誠実なんだよな。優しいんだ。
腕の温もりが泣きたくなる程心地よくて、──だから、俺はこの温もりだけで充分だ。
「もう一度、言ってくれよ……」
「え?」
少し困惑した風な塔矢の声に知らず笑みが漏れる。
『好きだ』それだけの言葉が、俺にとってどれだけ絶大な効果を持ってるかなんて、知
らないんだろうな。
自分勝手に満足出来るだけの言葉ならいくつだって掛けてもらったから、言うだけ言っ
てみたけれど、別に俺は塔矢の返事を期待してはいなかった。
けれど、生真面目なあいつは、少し考えた後ちゃんと言ってくれた、好きだよ、って。
俺は塔矢の背中に腕を回すと強くしがみついた。
「もっかい」
「愛してる、誰よりも。キミだけが大切なんだ」
「……うん」
そのままお互いの体温を暫く感じあう。
頬を塔矢の肩に少しだけ擦り付けて俺はあいつの顔を正面から捉えた。
「塔矢…抱いてよ」



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