平安幻想秘聞録・第一章 8
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「だったらさ、きっと、生きてるよ。近衛光もさ」
佐為のためにも生きていて欲しい。ヒカルはそう願わずにいられない。
大事な人を失って泣くのは辛いことだと、知っているから。
「もうちょっと、もうちょっとだけ、ここにいてくれないかな」
電気のないこの時代にはもう充分真夜中と言っていい時間だったが、
そのまま佐為と別れたくなかった。またうとうとして目を覚ましたとき
にそこに佐為の姿がなかったら。そう思うと、果てしないほどに怖い。
「いいですよ。それなら、今夜は私もここで寝ることにしましょう」
「ほんと?」
「えぇ、光と共寝もいいかも知れません(笑)」
佐為はもちろん冗談で艶っぽい意味を含ませているだが、ヒカルには
そこまでは分からない。そういえば、佐為ってオレが寝てる間ってどう
してたのかな。学校で居眠りしてたときは、佐為も寝てたけどさ。など
と呑気なことを考えていた。
しんと、虫の音さえ眠ってしまったような痛いくらいの静けさの中、
ヒカルはなかなか落ちてこない瞼を無理矢理合わせた。厚畳の寝具の寝
心地は悪くなかったが、硬い枕が頭に合わないのか、それとも三日も床
に伏せたままだったせいで単に寝足りてしまっているのか、なかなか眠
くならない。抱きかかえこともできない枕の上で右を見たり左を見たり、
それでもやけにはっきりして来る意識に、ヒカルは諦め目を開いた。
薄ぼんやりとした部屋。暗さに馴れて来ると、隣で眠ってる佐為の姿
がはっきりと見える。
やっぱ、変な感じだよなー。オレが起きてんのに佐為が寝てるなんて。
おまけに烏帽子を被ってない佐為を見るのも初めてだ。この時代では
就寝や禊ぎ以外で烏帽子や冠を外すことは滅多になく、頭を見せるのは
裸も同然らしい。
佐為・・・。
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