平安幻想秘聞録・第四章 8
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部屋の中にあるのはただ沈黙。話を終えて、ヒカルは女性二人からの
審判を待つ。自分が未来の人間である証拠を何も見せることはできない。
千年後の話をしたとしても、よくできたお伽噺と言われてしまいそうだ。
「東宮さまに・・・」
小さなため息の後、最初に口を開いたのは奈瀬の君だった。
「懸想されていると聞いたけど、本当なの?」
「えーと、あの、懸想って何?」
真顔で問い返すヒカルに、佐為は思わず衣の袖を眉間に当てた。
「懸想の意味を知らないの!」
「う、うん」
奈瀬の剣幕に、佐為〜、助けてよ〜と懇願の視線を送っても、佐為に
軽く逸らされる。答えないヒカルに奈瀬がずいと詰め寄った。
「もう、じれったいわね!」
「奈瀬の君」
あかりが慌てて引き留めようとしたが、一瞬、遅かった。
「東宮さまに求愛されてるのかって訊いてるのよ!女性の口からこんな
ことを言わせないでね!」
「きゅ、求愛・・・(///)」
やっと意味が分かって真っ赤になったヒカルの様子に、今までの剣幕
を引っ込めて、ほうっと奈瀬はため息を吐く。
「姿形が似ていると、中味まで似るのかしら。近衛と同じで、いと幼き
ことなり・・・だわ」
その言葉に、今度はヒカルががばりと身を乗り出した。
「オレの言ったこと、信じてくれんの!?」
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