sai包囲網・中一の夏編 8
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どうすれば、ボクがsaiのことを黙っているか・・・。
その言葉を進藤の口から聞けただけでも大収穫だが、ここで手を緩め
るつもりはない。掴んだと思った途端、指の間を擦り抜けるようにして
逃げてしまうキミだから。
「認めるんだね、キミがsaiだって」
「それは・・・」
囲碁部の三将として戦ったときの進藤は、確かに話にならなかった。
その前の練達さを知っているだけに、一瞬、我が目を疑ったくらいだ。
だけど、ワザとヘタに打ったんじゃないと、あのときの進藤の表情が物
語っている。小さな唇を噛み締め、大きな目から溢れそうになる涙を耐
えた、心底悔しそうな顔。ふと、そのときの進藤を思い出して、ぞくり
とした。
まだボクの知らない、キミの泣き顔を見てみたい。進藤、キミはボク
の中に今までなかった感情を見事なまでに引き出してくれる。キミと出
逢ってからというものの、自分が醜いまでに貪欲だという事実を突きつ
けられてばかりだ。
「あっちが本当の実力だと言い張るんなら、ボクは、もう二度とキミの
前には現れないよ」
「えっ」
歩き出しかけたボクを、慌てて進藤が呼び止める。
「ま・・・待てよ、塔矢!」
殊更、ゆっくりと振り返ると、ぐっと手を握り込み、せっぱ詰まった
ような表情の進藤がこちらに足を踏み出していた。
「さっきの話はどうなったんだよ!オレがsaiだって、言いふらすつ
もりなのか?」
そう、進藤。ボクと会えなくなることより、そっちの方がキミにとっ
ては大事なんだね。
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