sai包囲網 8
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悪いヤツじゃないんだよなとヒカルは思う。いつもこうやって笑って
くれればいいのに。オレなんて愛想良くして貰えたのは、最初に対局す
るまでの話で、その後はいつも怒ってるか無視されるかだもんな。
「遠慮しないでお茶をどうぞ。もしかして、猫舌なの?」
「あっ、そうじゃなくってさ。どうせならお前の部屋に行かないか。何
だかここじゃ落ち着かないんだよな」
「いいよ」
急須と茶碗、お茶受けを盆に戻したアキラに奥の部屋へと通される。
畳敷きの部屋に勉強机と本棚、箪笥。ごちゃごちゃともので溢れ返った
自分の部屋と違い、余計なものが全然置いていないように見える。それ
はいっそ潔いほどで、さすが塔矢だよなぁと、ヒカルは変なところで
感心してしまった。
ただ一つ目を引いたのは、机の上のパソコン。ヒカルの視線を追った
アキラがあぁと頷いた。
「二年前、それでsaiと打った」
ヒカルははっとしてアキラを振り返る。
「べ、別にそういうつもりで見てたわけじゃねぇよ。パソコン、持って
るんだなって・・・」
「君は、持ってないんだ」
「あ、うん」
「だから、ネットカフェ?」
「わ、悪いかよ!」
「あの夏休み中、ずっと?」
「ずっとってわけじゃ。あの日だってたまたまお前と会っただけだし」
「ふーん、本当にそうかな」
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