金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 8
(8)
それを口元に持っていき、ヒカルは意味ありげに門脇たちに微笑んだ。そして、止める暇もなく
一気にそれをあおった。
「あ!コラ!」
と、彼らが慌てて缶を取り上げたときには、中身はほとんど、ヒカルの胃袋に収まってしまっていた。
「エヘへ〜飲んじゃった〜」
そう言って笑うヒカルの口調は既に怪しい。
「あ〜あ…バッカでェ進藤…!」
ヒカルを指さして、和谷もケタケタ笑う。和谷の座っている側には、既に空き缶が四、五本
転がっている。
「和谷…」
伊角がウンザリしたように溜息を吐く。そして突然何かを思い出したように、身体をパッと
跳ね上げた。
「越智…越智は?」
幸い越智は飲んではいなかった。…………いや、そう見えただけだった。越智は缶ビールを
握り締めて、なにやらブツブツと呟いている。
「越智?気分が悪いのか?」
恐る恐る近づいて、顔を寄せる。望んだわけではなかったが、彼の呟きが耳に入った。
「……………聞くんじゃなかった…」
と、伊角は頭痛を堪えるように、額に手を当てた。
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