しじま 8
(8)
結局なにもせずにお風呂を出た。
和谷のことを考えてたら、のんきに下半身を弄ってる気など起きなかった。
部屋に戻ると、進藤はふとんに寝転がって詰め碁の本を読んでいた。
ボクに気付くと目を輝かせながら、本を振ってみせた。
「これ、おもしろいな」
「うん」
ボクは机のまえの椅子に腰掛けた。進藤のそばに行くのには勇気が必要だった。
そして今のボクにはそれがどこにもなかった。
「おまえの部屋ってホント、なんにも置いてないんだな」
「きみの部屋はいろいろとあるね」
「散らかってるって言いたいのかよ」
進藤は唇をとがらせた。だけど本気で怒っているわけではないことくらいわかってる。
「ところでさ、このパジャマ、着てて違和感があったんだけどさ、なんでかなー、って考え
たら気付いたんだけど、これオンナモノじゃねぇ?」
突拍子もないことを言われてボクは戸惑った。
女物? そんなの意識したことなかったけど、そう言われてみれば……。
「お母さんが買ってきたやつなんだ。たぶん間違えたんだと思う」
「何だよ、おまえ母親が買ってくるのを着るのかよ」
進藤は信じられないという顔をした。
「オレだったら絶対に着ない。自分の着る服は自分で選ぶぜ。だいたいおまえさ、手合い料
けっこう入ってんだろう? もっといろんな服を買えばいいじゃん。言っちゃなんだけど、
おまえもっとファッションセンスを磨いたほうがいいと思う」
頭にくる言い方だ。なんできみに服のセンスをどうこう言われなくちゃいけないんだ。
それに進藤、きみは少しお金を意識しすぎなんじゃないか?
そうだ、むかし進藤は「ちょこちょこっとタイトルをとって」なんてことを言ったんだ。
あれだってお金に目がくらんで言ったんだ。
思い出したら腹が……。
「塔矢、こっちに来いよ」
不意にとても柔らかな口調で呼びかけられて、それまでの思いが立ち消えた。
ボクは誘われるまま、進藤のところに行った。
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