天涯硝子 8


(8)

脇腹を、尖らせた舌先で強く押されるようにして舐められる。
反応すまいと思っても身体はピクンと跳ねた。
胸に這ってきた冴木の手が、小さな突起を見つけ、かすめるように弄び始める。
何だかまた下腹が疼いてきそうだ。
やさしく扱われ、うっとりとした気分でいたヒカルは、次の瞬間、息を飲んだ。
臍の辺りを舐めていた冴木が急に歯を立てて、噛みついて来たからだ。
「!!…痛ぁ!…冴木さん!」
獣が捕らえた獲物のはらわたを、まずは喰らおうとするように冴木はきつく噛みついた。
きりきりと腹の薄い肉に歯を立て、食い千切ろうとせんばかりだ。
「痛い!…つぅ…」
ヒカルは身体をこわばらせ、冴木の頭を引き離そうと手を掛けると、今度はその手の甲を噛まれた。
「冴木さん!」
ヒカルのかすれた声に冴木は少し間をおいてから、驚いて萎えてしまったヒカル自身を口に含んだ。
「……」
冴木の舌が包むように、ゆっくりと動く。
下腹は再び熱くなるのに、背筋は冷たくなった。
−−また、噛みつかれるかもしれない。
身体をずり上げ、両手をさ迷わせる。何かに捕まって冴木から逃げ出したかった。
何かを掴もうと延ばした手だったが、頭の上には閉ざされたかたいドアがあり、ヒカルは腕を打ちつけた。
座席の背もたれもヒカル達を囲う、高く冷たい壁のようだ。
寝かされているシートは少し身体をずらすと肩が落ち、そのまま頭も落ちそうになる。
ヒカルは目を開けてみた。何も見えないと思っていたのに、何か薄青いものが目の隅に映った。
しかし、それ以外はやはり何も見えない。何も無いようにさえ思える。
自分に触れている冴木の身体だけが、今の自分を救うもののように感じた。
もう何をされてもいいから、自分を抱いていて欲しいと思った。
噛まれるのではないかと心細かったが、冴木はずっとやさしくヒカルを扱っていた。
しばらくすると、ヒカルのモノを音を立てて舐めていた冴木がすっとヒカルから離れた。
離れたふたりの身体のすき間に冷えた空気が流れこんで、一瞬ヒカルはヒヤリとする。
…途中で放り出されて苦しい。
足に冴木が触れたかと思うと、腰を掴まれ乱暴にうつぶせにされると、片足が床に落ちてしまった。
ヒカルが足を延ばして腰を上げると、冴木の手が双丘をつかみ、親指でその入り口を押し広げた。
間髪入れずに冴木の熱い塊が押しつけられ、そのままグイッと刺し貫かれた。
「ああっ!!」
ヒカルの中に残っていた精液と入り口を濡らす唾液に助けられ、冴木は今まで以上に楽にヒカルの中を行き来できた。
前後に揺さぶられ、座席に顔をこすりつけてヒカルが呻く。
冴木が身体を折るようにして、自分の腹をヒカルの腰の上に乗せて来た。
手をヒカルの股間に延ばし、唾液に濡れたヒカル自身を掴むと激しくこすり上げた。
それはヒカルの中を打ちつけるリズムとは、また別のものだった。
ヒカルを前後に揺さぶると車体も揺れるのか、反動で返るヒカルの腰は、
冴木のモノで打ち砕かれるのではないかと思うほど、深く抉られた。
ヒカルが何事かを言う。しかし冴木は聞き取れなかった。
「…まだだ。…進藤…まだ…」
そうつぶやく冴木の声も、ヒカルに届いているのかわからない。
「…はぁっ、…はぁ…はぁっ…」
荒々しい息遣いに言葉はかすれて消えてしまう。
崩れるようにヒカルは打ち臥し、続いて冴木もヒカルの上に倒れこんだ。
水面を打つようなピシャピシャという音が消え、ヒカルの指がカリカリとドアを引っ掻く音が小さく響いた



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