夜風にのせて 〜惜別〜 8
(8)
八
「ねぇ明さん。私、明さんと一緒に写真が撮りたいです」
明への未練から、ひかるは初めておねだりをした。
「…写真ですか? そうですね。ボクもひかるさんとの写真が欲しいです」
「それでは今すぐに撮りに行きましょう」
自分に残された時間が残り少ないという焦りから、ひかるは自分が無理なお願いをしてい
ることに気付かない。
「でもこんな朝早くに写真館なんてどこも開いてませんよ」
いつもとは様子が違うひかるを不思議に思った。
「それならそれまで一緒にいることって…できませんか?」
「一緒にですか?」
明は驚く。今まで一度だってわがままなど言わなかったひかるが、こんなにも懇願する姿
は初めてだった。写真ならいつでも撮れるのに、ひかるはいったい何を急ぐのだろうか。
事情を知らない明は、朝が来ればひかるに会えるということが永遠に続くと思っていた。
「お願いです。一生のお願い。もう、わがままなんて言いませんから」
ひかるの懇願に動揺しつつも、明は冷静に応じた。
「今日は学校に行く日ですし、夕方なら時間をとれますが、それからではだめですか?」
明の冷静さに、ひかるは自分がとんでもないことを言っていたのだと気付いた。
「そうですよね。…わがまま言ってごめんなさい。今のはなかったことにして下さい」
ひかるはそう言って俯くと、マフラーを握り締めた。
「これ、大切にします」
そう言って去るひかるの後ろ姿がとても儚く見えて、明は不安になった。
「ひかるさん、ボク、今日の6時に駅前の写真館で待っています」
明はそう言った。そうでも言わないと、もうひかるに会えないような気がしたからだ。
「わかりました…」
ひかるは振り向くことなくそう言って去っていった。
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