トーヤアキラの一日 8 - 9
(8)
睨みつけていた視線を和らげると、ヒカルはため息をついた。
そして、悪戯をした子供を諭すようにヒカルは言う
「お前なぁ、喉仏に触れるって・・・・普通、外からだけだろ。舌で口の中から届くわけ無いだろ?」
「うん、ごめん」
「もー、絶対に食事中に変な事すんなよ!」
ヒカルがそれ程怒っていない事がわかると、アキラは体を起こしてヒカルの手を取る。
「もう絶対にしないから。食事を続けよう」
疑いの眼差しで見ているヒカルだったが、食欲には勝てないらしく、アキラの手をさりげなく
振り払い、少しアキラから離れた位置に移動して何事も無かった様に食事を続けた。
この事があった後も、ヒカルが食べている喉元を見ていると、アキラは体の奥底が疼くのを
止める事が出来ない。最初は喉の奥まで味わいたいと言う感情だけだったが、最近は口だけでは
なく、別の場所の奥底まで舌で味わいたい衝動にかられる。もうしない、と約束した以上、
食事中に襲い掛かって喉を味わおうとする事だけは、何とか自制しているアキラだった。
ヒカルはアキラのこうした突飛な行動を、大抵の場合は、怒りながらも受け入れてくれた。
ちょっと口を尖らせたり、少し大声を出す時は、本当には怒って無いのである。本当に受け入れ
られない時は、ヒカルは大声を出した後に押し黙ってしまうのである。その時は、周りを寄せ
付けない空気を漂わせており、アキラと謂えどもどうする事も出来ずに、ただヒカルの表情が
和らぐのを待つだけなのである。
一人の食事を終え、皿を洗うと、8時40分になっていた。部屋に戻って机の上にある封筒を確認
する。中には、消費税込みで「9,922円」きっちりが入っている。今日の午前9時から正午までの
間に、代金引換宅配便で商品が届けられる事になっているのだ。午前中のいつ来るか分からない
ので、出かけるわけには行かない。両親が不在なので、自分以外に受け取る人間は居ないので
あるが、中身の事を考えると、絶対に自分で受け取らなくてはいけない。
(9)
ふと机の横を見ると、ゴミ箱が一杯になっている事に気付く。今日は丁度、ゴミ回収の
日だが、9時までにゴミ集積場所に出さなくてはいけない。急いでゴミ箱を持って台所に
行き、棚の中にある半透明のビニール袋を取り出して、台所に置いてある生ゴミの入った
袋や空の牛乳パック等を放り込んでいく。最後に部屋のゴミ箱の中身をビニール袋の中に
逆さにして空ける。ゴミの中身は殆どがティッシュペーパーで、馴染みのある臭いが鼻を
衝き、いやでも昨夜の事が思い返される。
ヒカルと関係を持つまでは、自分で慰める事など殆ど無かったアキラであったが、最近では、
ヒカルに会えない夜に、ティッシュの山を築く事が多くなっている。
毎日、布団に入るまでは『今日こそはしない』と心に誓うのだが、布団に入って寝付け
ないでいると、その誓いは脆くも崩れ去ってしまう。
昨夜も『明日は進藤に会えるのだから、絶対にしない』と自分に言い聞かせて布団に入った。
何の物音もしない、暗く静かな部屋の中で目を瞑っていると、この部屋でのヒカルの姿が
自然に思い起こされる。楽しそうに話をしている顔、真剣な眼差しで碁盤を睨んでる顔、
甘える様に潤んだ瞳で見詰める顔・・・・・・・。
瞼の中のキミを抱き寄せて唇を重ねる。キミの柔らかい唇を軽く舐め回した後、勢い良く
口腔内に進入する。キミの舌を絡め取り、次々に唾液を流し込むと『んっ…..』と喉を鳴らし
ながら、与えられた液体を飲み込む。その動きを感じたくて、そっとキミの喉に手を当て
ると、喉仏が軽く上下しているのがわかる。
───あぁ、進藤・・・・キミに会いたい、キミに触れたい
───いやダメだ、これ以上キミの事を考えたらまたしてしまう・・・・・
そんなボクをキミは不思議そうに見詰めて、耳元で囁く『トーヤ、早くぅ』
───ダメだ、進藤、ダメだ・・・・・・
そう思うのに、キミの声に我慢できなくなって、思い切りキミを押し倒す。
───あぁ、これ以上ダメだ・・・・ダメだ・・・・・
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