金魚(仮)(痴漢電車 別バージョン) 8 - 9


(8)
 それを口元に持っていき、ヒカルは意味ありげに門脇たちに微笑んだ。そして、止める暇もなく
一気にそれをあおった。
「あ!コラ!」
と、彼らが慌てて缶を取り上げたときには、中身はほとんど、ヒカルの胃袋に収まってしまっていた。
「エヘへ〜飲んじゃった〜」
そう言って笑うヒカルの口調は既に怪しい。
「あ〜あ…バッカでェ進藤…!」
ヒカルを指さして、和谷もケタケタ笑う。和谷の座っている側には、既に空き缶が四、五本
転がっている。
「和谷…」
伊角がウンザリしたように溜息を吐く。そして突然何かを思い出したように、身体をパッと
跳ね上げた。
「越智…越智は?」
 幸い越智は飲んではいなかった。…………いや、そう見えただけだった。越智は缶ビールを
握り締めて、なにやらブツブツと呟いている。
「越智?気分が悪いのか?」
恐る恐る近づいて、顔を寄せる。望んだわけではなかったが、彼の呟きが耳に入った。
「……………聞くんじゃなかった…」
と、伊角は頭痛を堪えるように、額に手を当てた。


(9)
 「どうしよう…」
完全に出来上がってしまった三人を目の前にして、伊角は再び溜息を吐いた。
「大丈夫だよ。いつものことじゃないか…」
放っておけばいいと冴木は言った。
「そうだな。そのうち、正気に戻るだろう…」
門脇ものんきに笑った。
 だいたい誰のせいだと思っているのだ――と、伊角は言いたい。ヒカルに飲ませたのは
門脇だし、和谷にビールを与えたのは冴木だ。越智…越智は、気が付いたら飲んでいた。

 そうやって、悩む伊角の耳にけたたましい笑い声が響いた。
「アーハハハハ…何これー!」
「セーラー服だ…セーラー服だよ…誰ンだよ〜ヘンタイ〜」
ヒカルと和谷はヒイヒイとセーラー服を前に、腹を抱えて笑っている。
「あ、コラ!ダメだろ…人の荷物勝手にあけちゃ…」
慌てて止めようとした伊角に、ヒカルがしなだれかかってきた。



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