初めての体験+Aside 8 - 9
(8)
だが、アキラは思いもかけない言葉を口にした。
「迷った?地図を描いたじゃないか!」
社は耳を疑った。
―――――ええぇ!?もしかして、地図を渡したんは塔矢?なんで?
アキラの言葉に、ヒカルも「道を間違えた」と、シラッと答えている。
アキラが、柳眉を逆立てて、ヒカルに怒鳴った。
「だから、駅まで迎えに行こうかって、言ったろ?」
「地図があれば大丈夫だと思ったんだ!」
ヒカルも負けじと、アキラを睨み付けた。社が混乱している間にも、二人はますます
ヒートアップしていく。将に一触即発だ。
「おい…」
社が二人を止めようとしたとき、アキラが声を和らげた。
「…キミが心配なんだよ…」
「あんまり遅いから、玄関でずっと待っていたんだ…」
「…塔矢、ゴメン…」
ヒカルは、素直に謝った。そして愛くるしい笑顔で甘えるように言った。
「塔矢は過保護だなぁ。オレは大丈夫だってば…」
「でも、現に迷ったじゃないか?」
「だって、それは…」
社がいるのを忘れているのか、放っておくと二人は延々とこんな会話を続けそうだった。
こういうのを世間では、バカップルと言うのだろうか?
―――――そやけど、進藤とやったらバカップルと言われたいわ…
社は、心底アキラが羨ましかった。ヒカルの中で、自分はやっぱり二番目だった。心の中で泣いた。
(9)
「あ…社…ゴメン…疲れただろ?」
漸く、社の存在を思い出したらしい。アキラが怖くてなかなか突っ込めなかったので、助かった。
「さ、行こ!」
言うが早いか、ヒカルは社の荷物を取り上げると、勝手知ったるとばかりにパタパタと
奥に駆けていった。
「あ、荷物やったら…オレが…進藤!」
―――――ちょお!!!進藤、置いていかんといて〜〜〜〜!
社は、アキラと二人きりで玄関に取り残された。恐る恐るアキラを見た。
「どうぞ。上がって。」
アキラがニッコリと微笑んだ。一見、友好的だが………
「お、お邪魔します。」
顔を伏せるようにして、横をすり抜けようとしたときアキラがボソッと呟いた。
「ここに来るなんて良い度胸してるよね…しかも、進藤をポーター代わりにするなんて…」
ビックリして顔を上げた。アキラは先程と同じ柔和な笑みを浮かべている。目だけが
笑っていない。
「楽しい合宿になりそうだね。社君(強調)」
あ、あ、あ、悪魔や―――――――!
社は走った。アキラの側にいるのが怖かった。
振り返ったらアカン!後ろを見たらオレは……
塩になるのか、悪魔の真の姿を目にするのか…自分でも何を考えているのかわからない。
それくらい必死だった。
塔矢家の廊下は長い。だが、長いといっても何百メートルもあるわけではない。目的の
場所には、すぐに着いた。そこから、光が射しているような気がする。息せき切って中に飛び込んだ。
「あ、社。荷物ここに置いたからな。」
ヒカルが社に笑いかけた。心が安らぐ。まさに天使だった。
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