初めての体験 81
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負けた………。
強くなったと言っても、やっぱり岸本には勝てないのか。これじゃあ、塔矢と打つなんて、
夢のまた夢だ……。
ヒカルは、泣きたくなってしまった。自然と俯いてしまう。ふと、視線を感じて顔を
上げると、一瞬、岸本と目があった。岸本は、すぐに視線を逸らした。気のせいか、頬が
赤らんでいるように見える。
実際、岸本はやや冷静を欠いていた。碁盤に向かうヒカルの真剣な姿。勝負がついた後の
情けない泣きそうな表情。自分を見つめる大きな瞳。ヒカルの一瞬の表情の全てが、自分の
心に突き刺さってくる。自分でも、説明できない感情が湧き上がってきた。
それを隠すために、アキラのことを話し続ける。ヒカルにとっては、少々耳の痛い話題も
混じっていた。
「ヒカル…これは良い機会です…」
ヒカルの傍らに佇んでいた佐為が、声をかけた。ヒカルは、視線だけを後ろに向けた。
「この少年、どうやらヒカルに気がある様子…あっちの方も試して見ませんか?」
「え…でもぉ…」
ヒカルは気乗りしない。だって、今、負けたばかりなのに…。そんな気になれない。
「何を言うんです!強くなるためには、一局でも多く打ちなさいと、いつも言っているで しょう?強くなりたくないのですか?」
「強くならなければ、塔矢は歯牙にもかけてくれませんよ?」
その一言でヒカルの腹は決まった。
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