Linkage 81 - 82
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週明けの月曜日とはいえ、早朝の時間帯はまだ比較的道路も空いている。
緒方のRX-7は順調に塔矢家に向かっていた。
「あっ!これ、昨日の曲ですよね。え〜っと、サムワントゥ……」
「"SOMEONE TO WATCH OVER ME"だよ。来年の今頃ならアキラ君にもわかるだろうな」
アキラは嬉しそうに頷くと、フロントガラスの向こうに真っ直ぐ続く道路を見遣りながら
「中学生か……」と呟いた。
「中学に入ったらプロ試験を受けるだろ?」
緒方の問いかけに、一気に表情が曇る。
「でも、ボクの実力は……」
謎の少年との一局のことを思い出し、俯くアキラの肩に、緒方はハンドルから離した片手を
ポン置いた。
「例の少年のことはともかく、アキラ君の実力がプロに匹敵するものであることは間違いないさ。
これをバネに、中学に入って更に飛躍してほしいんだがね」
優しく肩を叩く緒方に、アキラもなんとか気持ちを切り替え、頷いて見せた。
しばらくの間、車内を沈黙が支配していたが、塔矢家の手前に緒方が車を止めようとした瞬間、
アキラがその沈黙を破った。
「……緒方さんっ!」
ギアをニュートラルに入れる緒方の左手に自分の手を重ねたアキラは、驚く緒方の顔を見据える。
「……急にどうしたんだい?」
「……あの後、ボクのこと朝まで見守っていてくれたんですよね?」
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緒方は自身の左手の上に重ねたアキラの手を右手でそっと包み込んだ。
「……しばらくリビングにいて、それからシャワーも浴びたが、その後はずっと
アキラ君を見ていたよ……」
アキラは自分の手を優しく包む、緒方のひんやりとした手に視線を向けた。
「…………うん。……ありがとう、緒方さん……」
俯いたまま、声を微かに震わせるアキラを見つめる緒方の心中は複雑だった。
だが、その思いを振り切るように、重ねた右手でアキラの手をポンと叩く。
「さあ、アキラ君は朝食を食べて、学校に行かないとな。悪いが、サイドブレーキを
引かせてくれないか?」
アキラはすぐさま紅潮した顔を上げると、頷いて手を離した。
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