誘惑 第一部 81 - 85
(81)
ヒカルの感度を探るように首筋に舌を這わせる。
肉付きの薄い胸に戸惑いながらも薄紅い突起を舌先で転がす。
そうしながら空いた手でヒカルのズボンのベルトを外し、ジッパーを下ろす。
下着の中に手を差し入れ、小さく締まった臀部を揉みしだきながら、ズボンと下着を脱がせていく。
ヒカルはきつく目を閉じながら、加賀の大きな手を感じていた。ごつごつした指が谷間を下がり秘孔の
入り口を軽く探ると、ヒカルは更にぎゅっと目をつぶった。
ヒカルのその反応に加賀は小さく口元を緩め、それから充分に紅く尖った突起を軽く舌先でつついた。
微かな刺激がヒカルの中で大きく増幅されて背筋を走りぬける。そうされながら、ヒカルはもぞもぞと足
を動かして、中途半端に脱がされて足に絡まるズボンと下着から足を引き抜いた。
と、それを見て加賀がヒカルの両脚を掴んで、大きく割り開き、ヒカルは息を飲んだ。
自分の股間が加賀の眼前に晒されている事に、ヒカルは羞恥で顔を赤くする。
「や…やだ、加賀…」
反射的にヒカルの身体が加賀の視線から逃れようとする。
「や…やめてよぉ…」
だがそんな恥じらいを聞き入れる男などいる筈がない。加賀はそのまま顔を近づけた。
白い内腿に舌を這わせ、時に吸い上げると、そこに紅い花びらが散ったような跡を残す。
「ひっ…」
加賀の舌がぴちゃりと後門を舐めると、ヒカルは思わず小さな悲鳴を上げ、きゅうっとそこが窄まった。
追い討ちをかけるように唾液を滴らせながら、秘孔から門渡りを舐め上げていく。その間も加賀の手は、
震えるヒカルのペニスにリズミカルに刺激を与えて行く。
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「やだっ…加賀、オレ、出ちゃう…や、やああっ!!」
耐え切れずにヒカルが加賀の手の中に白い液を吐いてしまうと、加賀が小さく微笑ったような気がして、
ヒカルは恥ずかしさに耐えられずに、せめて顔をそむける。
その仕草に気付いたのか、加賀がヒカルの顎を捉えて自分の方を向かせる。
「ん?よかったんじゃねぇのか?」
「……やだっ…加賀の意地悪…!」
「可愛いぜ、進藤。」
顔を真っ赤にしながら涙を溜めた目で加賀を恨めしげに見るヒカルの唇に、もう一度唇を寄せる。逃げ
ようとする唇を強引に捕らえて舌先でこじ開けようとするとヒカルの唇は抵抗できずに加賀を受け入れる。
「んんっ…」
舌を絡め、唾液を注ぎ込みながら、手で柔らかなヒカルの内腿をさすると、ヒカルの口から甘い喘ぎ声が
漏れる。一度放出したヒカル自身もすぐに固さを取り戻し加賀の腹部を刺激する。
「進藤…」
唇を離して名を呼ぶと、ヒカルは一瞬戸惑ったような目で縋るように加賀を見上げる。
加賀はふっと笑って、ヒカルの頬に唇で軽く触れた。
「本当にいいんだな…?」
熱い掠れ声がヒカルの耳に届く。
「……ん、」
ぼうっとした頭で小さく頷くと、加賀はのしかかっていた身体を起こし、ヒカルの身体をうつ伏せに返した。
そしてヒカルの腰を抱え、高く突き上げさせる。
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「行くぜ、」
加賀の熱い声がヒカルの耳に届いて、ヒカルは突然、恐怖した。
自分が何をしているのか、この瞬間まで、わかっていなかったのかもしれない。
怖い。嫌だ。
「…や、やだっ!」
けれどその時にはもう遅かった。逃げようとする腰を、加賀が押さえつける。
「イヤだ、やめてっ、や、あ、あぁああーーーー!!」
だがヒカルの抵抗を抑え付けてヒカルの中に加賀が侵入してくる。
その熱さと質量にヒカルが悲鳴をあげる。
「い…や、いやぁああ…!!」
ヒカルの目から涙がこぼれる。
嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ…、
ヒカルの脳には拒否の言葉しかない。
だがヒカルを貫く熱い塊はそれを無視して、ヒカルの中で動き始める。
その塊はヒカルの内部の官能を刺激し、熱い熱がヒカルを煽る。
ヒカルの中の拒否の言葉は、その熱に溶かされて飲み込まれて、輪郭をなくしていき、ヒカルの
内部を抉る熱はヒカルから反抗の意思を取り上げ、口から漏れるものは拒否の悲鳴から快楽の
喘ぎに変わっていく。
「やっ…やあ………や…あ……ああ…ん、あ……はあぁ…っ……」
ヒカルの喘ぎ声に呼応するようにヒカルを突き上げるリズムが激しさを増す。加賀の荒い息と腰を
打ちつける音に混じりヒカルの声も甘く、高まって行く。
そして一際強く奥まで打ち付けられると、悲鳴とも悦楽の叫びともつかぬ声をあげながら、ヒカル
は二度目の精を放出した。
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「セックスなんて、簡単なんだな。」
ヒカルがポツリと呟いた。
「オレ、ついさっきまで塔矢以外なんて考えもしなかったのに、こんな簡単にできちゃうんだな。」
そう言って、気だるげに煙草をふかしている加賀を見上げた。
「オレさァ、加賀のこと、好きだし、…加賀は、優しかったし、その………よかったよ。
でもさ、加賀……加賀はオレの事、別に、特別に好きだとか、レンアイカンジョーとか、持ってたわけ
じゃない、よ…ね。」
「…ああ。単に手のかかるしょうもない後輩だと思ってたよ。」
「それなのにどうして加賀はオレの事抱いたの?」
「じゃあおまえは塔矢が好きなくせに、どうしてオレに抱かれようなんて思ったんだ?」
「…オレは加賀が好きだし、加賀が優しくて頼りになると思ったからかな…」
「オレもさ、特別な恋愛感情じゃなくても、オレもおまえを好きだし、おまえを可愛いと思ったし、
おまえにキスされて欲情した。だからさ。」
恋愛感情、か。加賀は苦笑した。
恋だと気付いた時には失恋してて、恋敵の筈のヤツと、オレは何をしてるんだろうな。
「…好きじゃなくても出来るものなのかな。」
「男なんて大抵はそんなもんじゃないか?」
「オレ、よくわかんねぇ…」
ヒカルは小さい声で呟いた。
「よく、わかんねぇけど…オレ、もっと特別なものだと思ってたのに…こんなに簡単だったんだ。
簡単にできるもんだったんだ…」
だから…だから塔矢はヘイキなんだろうか。
塔矢にとってはキスもセックスも誰とでも簡単にできるものだったんだろうか。
オレは…塔矢しか知らなかったけど、オレにとってはすごく特別で大事なものだったけど、塔矢
にとってはそうじゃなかったんだろうか。
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「オレ、加賀が好きだ。加賀といると安心するし、加賀はいつもすごく頼りになるし、でも…
……でも、塔矢は違うんだ。
あいつといると、いっつもドキドキして、オレはどうしたらいいかわかんなくなって、気ばっかり
焦って。なんでだろう。」
それを恋って言うんじゃないか。今更わかりきったことを訊くな。馬鹿野郎。
そう思いながら、加賀は黙ってヒカルの言う事を聞いていた。
「オレにとってはいっつも塔矢は特別なんだ。
でもホントに塔矢にとってもオレは特別なのかな。オレがあいつを思うのと同じくらい、思って
くれてるのかな。ヘンだな。今まで、こんな事、考えた事もなかったのに。」
そして、ヒカルは返答を迫るように、加賀を見上げて言った。
「だってさあ、加賀、ヘンだと思わない?
あいつがオレを好きだなんて、何かの間違いじゃないかって、思わない?
塔矢名人の、元5冠の息子で、囲碁界のサラブレッドで、注目の的で、期待の星で。
それに、その上、囲碁の才能だけじゃなくって、あんなにどこにいても人目を引くくらいキレイで、
誰よりもキレイで、そうだよ、頭だって海王なんかに入るくらい頭いいし、オレなんかバカだし、全然
フツーの奴だけど、あいつは何もかもが全部特別だ。顔も、頭も、才能も、血筋も。
オレなんかと釣り合わねぇよ。そう思わないか、加賀?」
「バーカ、」
そう言って加賀はヒカルの額を指で弾いた。イテッ、とヒカルが小さく顔をしかめる。
「そういうので惚れたりする訳じゃねぇだろ。じゃあ、おまえは塔矢が特別なヤツだから好きになった
のか?違うだろう?惚れちまったから何もかも特別に見えるんじゃねぇか?」
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