平安幻想異聞録-異聞-<外伝> 81 - 85


(81)
思い切って肉刀を突き入れた。
「あ…あぁぁっ!」
アキラに抱きしめられたヒカルの体が一気に収縮した。
入れられたそれだけで、ヒカルは精を放っていた。同時にきつく締め付けて
きたその肉の輪の感触に、アキラもまた、自分の中のものを放ってしまっていた。
早すぎる終わりにどうしたらいいのか戸惑うアキラにかまわず、ヒカルは肩で息を
つきながらも、腰をゆらして続きをねだる。
その動きに、アキラのそれはすぐに力を取り戻し、ヒカルの中で固く自己を主張
しだした。
まだやっと尖端の雁首が入っただけのそれを、アキラはゆっくりと奥に押し進める。
肉刀を押し包む、筋肉の甘い感触に眩暈がしそうだ。
味わうようにじっとしていると、ヒカルがアキラの肩を抱きしめて頭を寄せ、
耳元に囁いた。
「動いて。少しずつ」
なるべくヒカルの希望に添うように、アキラはまず、ゆるゆると小刻みに中の
自身を抽挿してみると、ヒカルの男根も、開放したばかりだというのに、まるで
そんなことはなかったかのように再びきつく立ち上がった。
力を得たアキラが肉刀を奥に押し込むたびに、中の媚肉がそれに応えるように
締め付け、飲み込む息とともに、ヒカルの喉が何度も笛のようなか細い悲鳴を
あげた。――甘い悲鳴だった。
一度だけ、アキラは近衛ヒカルが、こんな蠱惑的な声を上げるのをきいたことが
ある。あれは二年も前。
賀茂の屋敷で二人きりで夜を迎え、呪の念によって放たれた淫邪の蛇に襲われた
時だ。だが、あの時聞いたどこか悲痛な響きのあった声とは比べることも出来ない
ほどの艶が、その喘ぎにはあった。
アキラは徐々に、腰の押し出しを強め、より深くへとその体を貫いていく。
ヒカルの腕が、アキラの背で何かを探すように動いていた。
また、下肢は妖しく揺れている。


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この段階では、既にああしろこうしろとアキラに指示するのもおっくうで、
ヒカルが自ら気持ちのよいところに当たるように腰を動かしているのがわかった。
「名前。名前、呼んで…」
ヒカルが薄く目を開けて、アキラを見ていた。
「ヒカル――」
「あ……」
名を呼べば、それでけで明らかに反応が違った。
「ヒカル」
「あ……あ……や……あっ……」
アキラがその内壁を突けば突くだけ、抑えきれないよがり声が、ポロポロとその
口からこぼれて落ちる。
睫毛を露に濡らしてヒカルは横を向くと、下に敷かれた衣の端を口に含んだ。
それで声は抑えられたが、目の前の白い首筋が波打つ様は、実際に声を耳にする
以上に、アキラの官能を刺激した。自然と、打ち付ける腰の動きは強く速くなる。
「んっ、んっ、んんっっ…、ん」
「ヒカル……」
「んっっ! んっ」
「ヒカル、ヒカル……!」
「ん…、ぅんんっっ、ん!んん!」
互いの実が限界を迎えて弾ける直前、唐突にヒカルはそれまできつく噛んでいた
布を放すと、強引な程の力でアキラの顔を引き寄せ、唇を重ねてきた。アキラも
夢中になって、その唇を吸い上げていた。
最初に頂点の地を踏んだのはアキラだ。
アキラが吐きだした樹液の熱さを中で受け止めて、ヒカルがその後を追った。
「ん―――っ!んっ!」
淫液がアキラの腹を濡らした。
ヒカルの体が足の爪先までつっぱって、腕の中から逃れそうになるのをアキラは
力を込めて抱き留める。
彼の口から上がった淫声を外に漏らすのがもったいないような気がして、
より唇の交わりを深くする。
自分の下で、ヒカルの体がゆっくりと力を失っていくのがわかった。


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互いの胸の上下する速度が徐々に緩くなるのを待って、アキラは重ねたまま
だった唇を放した。
そのまま、体を起こし、ヒカルの中から出ていこうとすると、当のヒカルが、
掠れた声でそれを押しとどめた。
「やだ、まだ……中にいて……」
どうしたら、彼のそんな願いに逆らえるというのか?
アキラはもう一度、ヒカルの体を抱きしめ直す。
心地良さそうな溜め息が、ヒカルの唇から洩れたのを聞いた。


ヒカルは夢心地の中にいた。
あの伊角に触れられた夜以来、快楽をもとめて泣いていた体も、今は静かだ。
手を延ばせばそこに人肌の温もりがある。
ただ、快楽が与えられただけではない。体だけでなく、気持ちも温かさで
いっぱいになるような、この感覚こそ、ヒカルが欲しかったものだった。
体を離そうとしたアキラを押しとどめて、その温もりの名残をおしんだ。
まだ、感じさせておいて欲しかったのだ。
すでに陽は落ちて、碁会所の中は暗く、相手の顔を見分けることも困難だ。
だが、今はそれでいい。
やがてアキラがそろそろと身を起こし、ヒカルの中から出ていくのを、
ウトウトとしながら感じる。
絹ずれの音がして、アキラが身支度を整える気配の後、目を閉じて寝たふりを
しているヒカルの体に、ふわりと着物がかけられた。
それから、かすかに木の軋む音がして、彼が出ていったのがわかる。
静かで、そして、幸せだった。
口の中で、もういない人の名を呼んで、ヒカルは体にかけられた着物を顎の
辺りまでまでひっぱり上げた。


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ヒカルの鼻をつんと、菊の香の匂いがついたのはきっと気のせいだろう。
気のせいでもいい。
それが偽りのものだとしても、今はその心地よさに身を浸していたかった。


アキラは人気のない自分の屋敷に帰り着いて、文机の上に突っ伏した。
ずっと、ヒカルの事が好きだった。だが、そこに肉欲がともなっていたかと
いうと自分でもよくわからない。元々、閨事に疎い自分は、彼と世間話をして
いれば充分に満足だったし、まったく彼の肌に触れたくなかったかと言えば嘘
になるが、でも、彼が自分のものにならなくても、こちらに笑いかけてくれる
なら、それでいいような気もしていた。
だから、今日はじめて彼の体を手にした時も、彼を抱けるのだという降ってわいた
幸運に喜ぶよりも先に、自分に佐為の変わりが務まるだろうかという緊張が心を
支配した。
だが、一度触れてしまえば、それが自分自身に対するごまかしでしかなかったと
考えずにはいられない。
――まるで甘露で満たした瓶の中に身を沈めているようだった。
普段、自分の前で意地をはってみせる風情のかけらもなく乱れるヒカルの姿に
心を奪われた。
こんなにどこもかしこも感じやすい彼の体に驚き、捕らわれた。
昔、同じように体を穿たれて乱れたヒカルを、アキラは知っている。
しかし、二年前に聞いた彼の声は、あれほどにこちらの胸を焦がしたろうか?
下肢はあれほど、淫らに動いたろうか?


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あの忌まわしい夜の思い出の中のヒカルは、その時、自分は何も出来なかったと
いう後悔の念とともに、何処までも痛々しいものとしてアキラの脳裏に刻み付け
られていたが、今日の彼は、自分の腕の内で積極的に快楽の沼に身を投げ出し、
全身でそれを享受しようとしていた。
受け止めるだけではない。能動的にアキラを引き寄せ、耳や胸を軽く噛んだりも
した。
誰が、こんな彼を作り出したのだろう。
そんなことは考えなくてもわかっている。
今は姿を消した、あの美しい人が、ヒカルをあんな風にしたのだ。
以前の自分なら、ヒカルと彼の閨事など想像したこともなかった。
そもそも、その手のことに想像するための知識が圧倒的に不足していた。
だが、今はそれがどんなだったか、自分は知っている。
他ならぬヒカルが教えてくれたのだ。この手を導き、唇をふさいで。
なまじ、藤原佐為とも親交が深かっただけに始末が悪かった。
目を閉じれば、あの白い腕がヒカルの腰をまさぐるさまを想像してしまう。
かの人がどうやってあの体を貫き、ヒカルがどうそれに応えたか、まぶたの
裏に思い描いてしまう。
優しげで落ち着いた声が「ヒカル」と名を呼び、ヒカルがそれに嬌声で答える。
文机に伏したまま、アキラはその光景を打ち消そうと、髪をかきむしった。
その夜、アキラの心を満たしたのは、想い人をはじめて抱いた満足感などでは
なかった。
身を焦がすような嫉妬だったのである。



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