日記 82 - 84
(82)
蕾のいっぱいついた鉢植えをヒカルは選んだ。これから、毎日、咲くのを見られるのがいい。
「間に合うかな…塔矢…ダメかなぁ…」
駆け出しかけたヒカルを誰かが、後ろから呼んだ。
「…?和谷?」
「どこ行くんだ?ちょうど良かった。オレ暇なんだ。オマエも予定がないんだったら、
オレん家、来ネエか?」
和谷が、いつもの笑顔で言った。
ヒカルは、少し逡巡した。改めて、時計を見た。一時近い。もう無理みたいだ…。
がっかりしてしまう。
「どうしたんだよ?」
和谷が、ヒカルの顔を覗き込む。しょげた顔を見られたくなくて、無理に笑顔を作った。
「行く。行くよ。」
「やた!じゃあ、ちょっとメシ食ってから行こうぜ。」
先に立った和谷の後ろを、慌ててついていく。右手に下げた鉢植えが少し重かった。
(83)
ヒカルを部屋に招き入れながら、和谷は迷っていた。理性が和谷に警告を発している。
―――――今なら、まだ間に合う…まだ、引き返せる…
ヒカルは、勝手に碁盤を出して、碁石を並べ始めた。和谷は、ヒカルに気づかれないように
そっと玄関の鍵をかけた。少し、手が震えた。
ヒカルの隣に腰を下ろす。ヒカルが屈託のない笑顔を向けた。目眩がしそうだ。間近に
見るヒカルの大きな目や、小さな口元に目が吸い寄せられる。陽の匂いがする髪が、
和谷の鼻先をくすぐった。
気がつけば、ヒカルを抱き締めていた。
「…!?わ…わや?」
「好きだ…進藤!」
戸惑っているヒカルを抱く腕に力を込めながら、和谷は思いの丈をぶつけた。
「う…うそだ…だって、冗談だって…ふざけただけだって…!」
「ウソじゃねえ…ずっと…」
そう言って、ヒカルの唇に自分のそれを重ねた。あの時は、触れるだけで精一杯だった。
だが、今日はより深く、まるで貪り食うかのように、ヒカルを捕らえた。ヒカルの口内に
侵入し、その舌の甘さを思う存分味わった。
和谷の腕の中で、ヒカルが激しく暴れた。和谷の手や顔を無茶苦茶に引っ掻いた。腕の
力が少しだけ弛んだ。ヒカルが顔を背ける。だが、その身体は、相変わらず和谷の腕に
抱かれたままだった。ヒカルが目に涙を滲ませて、怒鳴った。
「離せよ!!こんな悪ふざけ最低だ!オレ、帰る!」
その瞬間、和谷の中にほんの少しだけ残っていた理性は、すべて消し飛んだ。その言葉が、
怯えたヒカルの精一杯の強がりだということに、気づく余裕さえもなかった。
(84)
和谷は、ヒカルを乱暴に押し倒した。そして、暴れるヒカルの頬を思い切り張った。
ヒカルが大人しくなるまで、二度三度と続けて何度も殴った。
静かになったヒカルの服に手を掛けた。引き裂くように、剥がしていく。ボタンが
千切れて、部屋の隅に転がった。
意識を半分手放しているヒカルの瞳に、獣の様な自分の姿が映されていた。浅ましい姿だ。
思わず目を逸らした。それでも、突き上げるような衝動は収まらなかった。
―――――もう…引き返せない!
頭の中は、ヒカルを手にすることでいっぱいだった。胸をはだけさせると、淡く色づく
突起が目を射した。健康的なヒカルに合わない匂い立つような色気に、思わず、息を飲んだ。
逸る心を押さえ付け、華奢な腰に手を伸ばし、邪魔なジーンズを脱がした。白い内股や、
その足の細さに感嘆の溜息を吐いた。だが、その中心にあるモノは、和谷の暴力に怯え、
力無く項垂れたままだった。
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