Linkage 83 - 84


(83)
 車から降りた2人をアキラの父親が出迎えた。
「緒方君、アキラが面倒をかけて済まなかったな。アキラ、緒方君に礼は言ったか?」
「はいっ!緒方さん、ありがとうございました」
 アキラはあたかも何事も無かったかのように屈託のない笑顔を浮かべると、緒方に
ぺこりと頭を下げた。
「面倒だなんて、とんでもないですよ。アキラ君にはプレゼントを貰ってしまって……」
 ポケットから銀色に輝くライターを取り出して見せる緒方に、アキラは嬉しそうに笑った。
「使ってくださいね!」
 プレゼントのことを知らなかったのか、塔矢は少し驚いた様子でアキラと緒方を交互に見つめる。
「緒方さん、昨日が誕生日だったんです」
 アキラの言葉に塔矢は得心した様子で微笑むと、アキラの肩に手をかけた。
「先月、アキラは緒方君からプレゼントを貰ったからな」
 アキラは父親の言葉に頷くと、ふと声を上げた。
「ボク、これから制服に着替えなきゃ!」
「そうだぞ、アキラ君はこれから学校だ」
 アキラは「じゃあね、緒方さん!」と明るく言って、緒方に再び頭を下げると、
慌てて家の中へ入って行った。
「本当に朝食はいいのか、緒方君?」
 塔矢の問いかけに、緒方は苦笑しながら答える。
「ええ……。せっかくのお誘いなんですが、どうも朝は胃が……」
 塔矢もそれ以上は引き止めなかった。
アキラが世話になったことに再び手厚く礼を言うと、一礼して車に乗り込み去っていく
緒方を見送った。


(84)
(……アキラ君に『ありがとう』なんて言われる資格が、オレのどこにあるって
いうんだ……)
 ギアをシフトしながら、緒方はやりきれなさに大きく息を吐き出した。
とりたてて目的地もないまま都心から下る高速に乗ると、一気にアクセルを踏み込む。
 しばらくそのまま運転を続けていた緒方だったが、車内に再び流れ出した
SOMEONE TO WATCH OVER MEに、思わずCDを止め、ラジオに切り替える。
適当に選局しているうちに、低く気怠げな女性の歌声に惹かれ、そこで選局する
手を止めた。
曲は途中だったが、英語の歌詞は内容から察するに辛い恋を歌ったものらしい。
何度か繰り返される歌詞に、思わず緒方は自嘲的な笑みを浮かべた。
「"What I need is a good defense. 'Cause I'm feelin' like a criminal."か……。
まさしく今のオレじゃないか……」



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