失着点・展界編 85
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二人の行為を見つめていた伊角は、突然和谷にそう言われて弾かれたように
顔を上げた。
「い、…いや、…オレは…」
「…しないの?オレはてっきり伊角さんも…」
まだヒカルと深く繋がって覆い被さったまま、和谷は少し怪訝そうな顔を
したが、「まあいいや」というように再びヒカルの中で動き始める。
今の一度では味わい切れなかったと言いたげに。
伊角はヒカルを見た。ヒカルは空ろな表情で伊角を見ている。
「助けて」とはもう言わない。ただ、一刻も早く解放して欲しい。そういう
目だった。伊角の中で何かが葛藤していた。だが、何かを決意したような
顔つきになると、立ち上がってズボンのファスナーを下ろした。
ヒカルの目に絶望的な色が落ち、全てを諦めたように目を閉じた。
「…やっぱり、するんだ。」
和谷はヒカルから離れた。ヒカルの両足の間に膝をついた伊角とヒカルの目が
再度合った。もうヒカルの目には何の感情もなかった。ただぼんやりと
伊角を眺めている。その目を避けるように伊角はヒカルをうつ伏せにし、
腰を開いた。赤く膨れ上がった狭門に少し戸惑いながらも、自分の先端を
宛てがい、そっと腰を突き入れる。今まで和谷が埋まっていた名残りと
和谷が放った潤滑液のよってほとんど抵抗感なく先が埋まって行った。
「うっ…」
視覚的な刺激ですでに過敏になっていた伊角のそこは、底なしの沼のような
柔らかな肉壁の味わいに最高潮まで質量を増し、脈打ち始める。伊角は、
和谷が今まで居た場所に自分も入っているということに、興奮していた。
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